ヨーロッパ選手権22 女子シングルは大方の予想通りに

年が明けて最初の大きな大会、そしてオリンピック前最後の大きな大会、ヨーロッパ選手権が終わりました。今回はまず女子シングルの振り返りです。表彰台は大方の予想通りだったでしょうか? ただ、スコアはもう少し上のものを予想された方も多かったのではないかとも思います。

 

○女子シングル フリーまで滑った23人

Pl Name Nation Total SP FS
1 Kamila VALIEVA RUS 259.06 90.45 168.61
2 Anna SHCHERBAKOVA RUS 237.42 69.05 168.37
3 Alexandra TRUSOVA RUS 234.36 75.13 159.23
4 Loena HENDRICKX BEL 207.97 76.25 131.72
5 Ekaterina KURAKOVA POL 204.73 67.47 137.26
6 Ekaterina RYABOVA AZE 196.75 65.47 131.28
7 Anastasiia GUBANOVA GEO 188.17 67.02 121.15
8 Niina PETROKINA EST 187.07 58.30 128.77
9 Viktoriia SAFONOVA BLR 185.41 63.07 122.34
10 Alexia PAGANINI SUI 178.10 62.32 115.78
11 Eva-Lotta KIIBUS EST 171.64 59.16 112.48
12 Lea SERNA FRA 171.00 62.16 108.84
13 Nicole SCHOTT GER 170.18 61.86 108.32
14 Josefin TALJEGARD SWE 164.30 58.24 106.06
15 Olga MIKUTINA AUT 164.01 60.16 103.85
16 Lara Naki GUTMANN ITA 163.99 52.94 111.05
17 Natasha McKAY GBR 161.74 57.07 104.67
18 Jenni SAARINEN FIN 160.32 58.93 101.39
19 Yasmine Kimiko YAMADA SUI 159.18 56.54 102.64
20 Alexandra FEIGIN BUL 155.56 56.78 98.78
21 Eliska BREZINOVA CZE 155.24 59.62 95.62
22 Aleksandra GOLOVKINA LTU 142.20 52.63 89.57
23 Regina SCHERMANN HUN 133.42 54.43 78.99

表彰台はロシアで独占。ただ、スコアはそれぞれ期待ほど出なかったのかな、という印象です。

ワリエワ選手の259.06はシーズンで下から2番目。ショートで90点出しながらのスコアであり、フリーはシーズンワーストです。それでもあっさり買ってしまうのはさすがではあります。

2位に入ってきたのはシェルバコワ選手。ショートは70点に届かず出遅れましたがフリーでパーソナルベストを更新しました。調子がいいんだか悪いんだか。今シーズンはショートフリーを2本そろえるというのが出来ていません。237.42というのは他の選手になかなか出しづらいスコアではありますが、ザギトワ選手が19年の世界選手権で237.50を出しているように、現行のルールでもトリプルアクセル以上のジャンプがない選手にも出しうるスコアの範囲ではあったりします。

トゥルソワ選手が3位。シニアに上がってから大きなタイトルを獲っていないトゥルソワ選手。今回はショートのトリプルアクセルが転倒、フリーは序盤調子よかったもののトーループとルッツの2つの4回転で転倒、ルッツはダウングレードになり、結局決まった4回転は2本でした。やはり精度が問題。234.36というのはシーズンベスト更新のスコアではありました。

4位に入ったのはベルギーのルナヘンドリックス選手。ショートは76.25の2位で折り返したものの、ロシアの表彰台独占は防げず。それでも、ロシアの周辺国代表でロシアで連取している選手ばかりが上位の大会、というのをヘンドリックス選手が4位になることで防いだ形ではありました。

5位はポーランドのクラコワ選手。ここまでが200点に乗っています。6位アゼルバイジャンのリャボワ選手、7位はジョージアのグバノワ選手とこのあたりまでロシア系の選手が並んで、8位にエストニアのペトロキナ選手が入りました。エストニアもオリンピック代表が決まっていない国ですが、このヨーロッパ選手権の結果で、エヴァロッタキーブス選手を押しのけて、ペトロキナ選手が代表になる確率が高そうです。

 

○ワリエワ選手のショートプログラム構成

  Elements    BaseValue   GOE Scores  
1 3A   8.00   3.54 11.54 4.333
2 3F   5.30   1.89 7.19 3.556
3 CCoSp4   3.50   1.65 5.15 4.667
4 3Lz+3T   11.11 x 2.19 13.30 3.667
5 StSq4   3.90   1.89 5.79 4.778
6 FCSp4   3.20   1.51 4.71 4.667
7 LSp4   2.70   1.35 4.05 4.778
  TES   37.71   14.02 51.73  

ワリエワ選手のショートプログラム史上最高得点の構成。

7項目のうち5項目でGOEが+4以上でした。レイバックスピンは一人が+3を付けただけで後の8人が+5評価のためスコアをとしては満点扱いです。後のスピン二つは3人が4で6人が+5 ステップは+5は7人で+4が2人でした。冒頭のトリプルアクセルも5人が+5評価です。全要素全ジャッジで最低評価が+3 技術点51.73は史上最高。また、4回転抜きで技術点50点を超えた選手は男子にもいません。

PCSはSkating Skillsで1人、Performanceで4人、Compositionで2人、Interpretationで4人がそれぞれ満点の10.00を付けています。圧倒的な評価でした。

 

○総合上位6選手のショートプログラム

  Kamila
VALIEVA
Anna
SHCHERBAKOVA
Alexandra
TRUSOVA
Loena
HENDRICKX
Ekaterina
KURAKOVA
Ekaterina
RYABOVA
1 3A 2A 3A 3Lz+3T 3F!+3Tq 3Lz+3T
2 3F 3F 3F 2A 2A 2A
3 CCoSp4 FCSp4 CCoSp4 CCoSp4 FCSp4 CCoSp4
4 3Lz+3T 3Lz+COMBO 3Lz+3T 3F 3Lo 3F
5 StSq4 CCoSp4 FCSp4 FCSp4 StSq4 StSq3
6 FCSp4 StSq4 StSq4 StSq4 CCoSp4 FCSp3
7 LSp4 LSp4 LSp4 LSp4 LSp4 LSp3
Base 37.71 28.39 37.71 32.53 31.49 31.23
GOE 14.02 5.40 3.73 9.12 4.29 4.53
PCS 38.72 36.26 34.69 34.60 31.69 29.71
Total 90.45 69.05 75.13 76.25 67.47 65.47

上位選手のショートプログラムの構成。

トリプルアクセルを飛ぼうとしたのは二人。トゥルソワ選手は転倒でしたが、トリプルアクセル付きでコンビネーションが1.1倍になって基礎点37.71というたかいものになっています。シェルバコワ選手はコンビネーションで転倒したためセカンドジャンプが消えて基礎点28.39という極めて低い値になりました。4位以下の選手は冒頭コンビネーションで3-3で1.1倍にシングルジャンプというオーソドックスなもの。クラコワ選手はルッツなし構成で基礎点が31点台に、リャボワ選手はスピンステップでレベル3が目立って基礎点31点台となります。

PCSはワリエワ選手が平均9.5を超えて38.72まで出ました。転倒のあったシェルバコワ選手が36.26 転倒無かったらどこまで出るんでしょう? トゥルソワ選手も転倒込みで34.69までPCSがあり、ヘンドリックス選手の34.60を上回ってきます。

 

○トゥルソワ選手のフリーの構成

  Elements    BaseValue   GOE Scores  
1 4F   11.00   4.71 15.71 4.333
2 4S   9.70   3.88 13.58 4.000
3 2A+3T   7.50   1.38 8.88 3.333
4 4Tq q 9.50   -4.75 4.75 -5.000
5 CCoSp4   3.50   1.05 4.55 3.111
6 ChSq1   3.00   1.50 4.50 2.889
7 4Lz<< <<  6.49 x -2.95 3.54 -5.000
8 3Lz+1Eu+3S   11.77 x -1.18 10.59 -2.000
9 3Lz+3T   11.11 x 1.52 12.63 2.556
10 FCSp4   3.20   0.96 4.16 3.111
11 StSq3   3.30   0.99 4.29 3.000
12 FCCoSp4   3.50   1.00 4.50 2.889
  TES   83.57   8.11 91.68  

トゥルソワ選手は4回転4種類4本の構成。最初の2本はGOEが+4以上、冒頭のフリップに至っては+5評価3人でGOE+4.333というものすごい評価を得ました。ところが、3本目の4回転トーループで転倒、1.1倍に入れたルッツではダウングレードの上転倒、と結局決まった4回転は2本にとどまっています。トーループはロシアナショナルに続いての転倒。今シーズン、ルッツ、フリップ、サルコウは決めてきているのですが、トーループはまだ3回飛んで一度も成功がありません。ちょっと意外。全部そろうとものすごい点が出るわけですが、それが一生に一度、オリンピックにぴったり当たる、なんてことがあったりするでしょうか?

 

○総合上位6選手のフリーの構成

  Kamila
VALIEVA
Anna
SHCHERBAKOVA
Alexandra
TRUSOVA
Loena
HENDRICKX
Ekaterina
KURAKOVA
Ekaterina
RYABOVA
1 4S 4F 4F 3Lz!+3T 3Lz+1Eu+3F 3Lz+3T
2 3A 3F+3T 4S 2A 3Lz 3Lo
3 4T+3T 2A 2A+3T 3F 3T FCCoSp4
4 3Lo ChSq1 4Tq 2A 2A 3F!
5 FCSp4 2A CCoSp4 CCoSp4 FCCoSp4V 3S
6 ChSq1 FCSp4 ChSq1 StSq4 3S+2A+SEQ StSq3
7 4T+SEQ+3S* 3Lz+3Lo 4Lz<< 3Lz+2T 3Lo+2T 2A+3T
8 3F+3T 3F+1Eu+3S 3Lz+1Eu+3S 3Fq+REP ChSq1 2A+2T+2T
9 3Lz 3Lz 3Lz+3T 3S+2T+2Lo 3Lo 3Lz
10 StSq4 StSq4 FCSp4 LSp4 CCoSp4 ChSq1
11 FCCoSp4 FCCoSp4 StSq3 ChSq1 StSq3 LSp4
12 CCoSp4 CCoSp4 FCCoSp4 FCCoSp3 LSp4 CCoSp4
Base 78.70 73.68 83.57 58.13 59.13 61.83
GOE 15.88 20.42 8.11 6.15 11.61 8.13
PCS 75.03 74.27 69.55 69.44 66.52 61.32
Total 168.61 168.37 159.23 131.72 137.26 131.28

ワリエワ選手はトリプルアクセルで転倒。唯一安定感がないのがトリプルアクセル。ショートフリーで2本トリプルアクセルに転倒するようなことが起きると、ノーミス4回転5本トゥルソワ選手や、難度を上げて4回転3本入れたシェルバコワ選手あたりに敗れる可能性は残ります。今回は3連続でもミス。こちらは珍しいミスと言えると思います。結果として技術点は94.58と本人比では平凡なスコアにとどまりました。

シェルバコワ選手はトゥルソワ選手より基礎点は10点近く低いのですが出来栄えで上回っていきました。4回転は1本だけ。これだとワリエワ選手と勝負するには厳しいですが、ここまで入ってショートもノーミスならロシア以外の選手には負けません。オリンピックではワリエワ選手に勝負する構成に上げていくか、確率高い構成で確実に表彰台を取りに行くか。1本だけの4回転でダウングレードで転倒、なんてことになると、他国の選手に付け入るスキを与えることになります。

4番手以下の選手ではリャボワ選手の基礎点が一番高く61.83までありました。ヘンドリックス選手はフリップがコンビネーションはいらずリピート扱いになって基礎点58.13 ただ、ここにちゃんとコンビネーションが入っていても60.38までしか基礎点はありません。ループが苦手で構成に入れていないのですが、これを今シーズン一度だけ入れた時は回転不足で減点されたもののダブルアクセルより基礎点高い扱いで合計61.00までなら出したことあります。ヘンドリックス選手は構成の弱さがどうしても弱点です。

クラコワ選手はフリー4位に入ってきました。ジャンプのミスなし。スピンでVがついたりステップレベル3などで取りこぼしもあって基礎点59.13と60点に乗らず。セカンド3回転の無い構成で構成に苦心している感じもあります。

ロシア勢3人とそれ以外の選手の間で構成の落差が極めて大きくなっています。

 

○フリーを滑った23人の要素別のスコア

Pl Name Nation Total PCS J Base J GOE Spin Step
1 Kamila VALIEVA RUS 259.06 113.75 86.01 15.54 28.98 15.78
2 Anna SHCHERBAKOVA RUS 237.42 110.53 71.67 12.60 27.54 16.08
3 Alexandra TRUSOVA RUS 234.36 104.24 91.48 2.05 25.56 14.03
4 Loena HENDRICKX BEL 207.97 104.04 61.26 3.51 25.48 15.68
5 Ekaterina KURAKOVA POL 204.73 98.21 62.19 7.02 23.20 14.11
6 Ekaterina RYABOVA AZE 196.75 91.03 65.06 5.80 22.59 12.27
7 Anastasiia GUBANOVA GEO 188.17 91.39 60.48 2.41 21.98 12.91
8 Niina PETROKINA EST 187.07 87.91 60.98 6.32 19.22 12.64
9 Viktoriia SAFONOVA BLR 185.41 86.33 63.08 2.93 21.79 11.28
10 Alexia PAGANINI SUI 178.10 89.07 57.79 1.50 18.84 11.90
11 Eva-Lotta KIIBUS EST 171.64 87.77 48.13 2.10 21.92 12.72
12 Lea SERNA FRA 171.00 84.09 57.98 -6.55 23.77 12.71
13 Nicole SCHOTT GER 170.18 87.30 48.77 1.05 22.38 11.68
14 Josefin TALJEGARD SWE 164.30 84.40 44.77 0.07 21.25 13.81
15 Olga MIKUTINA AUT 164.01 85.77 45.59 -1.28 22.22 12.71
16 Lara Naki GUTMANN ITA 163.99 78.59 50.40 2.81 20.60 11.59
17 Natasha McKAY GBR 161.74 79.78 47.44 2.54 20.54 12.44
18 Jenni SAARINEN FIN 160.32 84.79 45.83 -0.72 19.59 11.83
19 Yasmine Kimiko YAMADA SUI 159.18 75.54 55.39 -1.48 19.28 11.45
20 Alexandra FEIGIN BUL 155.56 74.95 53.54 -3.27 20.65 10.69
21 Eliska BREZINOVA CZE 155.24 78.64 42.84 2.14 21.02 10.60
22 Aleksandra GOLOVKINA LTU 142.20 72.94 45.25 -6.12 22.08 10.05
23 Regina SCHERMANN HUN 133.42 68.21 44.68 -8.01 21.49 11.05

PCS110点超えが2人。平均9点で108点。平均9.5で114点。ワリエワ選手はショートフリー通じて平均が9.5に近い点数までもらいました。100点超えは後二人。トゥルソワ選手はヘンドリックス選手よりわずかですが上の評価。平均8点が96点で8.5で102点。二人は8.5を少し上回る評価でした。

ジャンプの基礎点はトゥルソワ選手がトップで91.48 今シーズン全体で3番目。スケートカナダのワリエワ選手93.38、USインターナショナルのトゥルソワ選手の92.12の次です。ルッツがダウングレードされなければ最高基礎点でした。ワリエワ選手は86.01で本人比でシーズン最低でしたが、これを超える基礎点を今シーズン持っているのは、トゥルソワ選手とジュニアのアカチエワ選手だけです。シェルバコワ選手は71.67でトゥルソワ選手と基礎点で20点ほど差がつきました。これくらいの基礎点ならユヨン選手やアリサリュウ選手は超えてきます。つまり、トリプルアクセル2本で届く水準です。その下はリャボワ選手で65.06 このあたりになると高難度ジャンプ無しで届く水準になります。ヘンドリックス選手は61.26 コンビネーションがショートで入らなかったシェルバコワ選手と10点ほど差があります。

そのジャンプの加点はワリエワ選手がいつものようにトップ。二桁に乗ったのはもう一人シェルバコワ選手です。失敗が1つ2つあっても全体の出来が良いとここまで出ます。トゥルソワ選手は+2.05とかろうじてプラスがあるという程度。ジャンプの転倒がショートフリーで3つ。高難度ジャンプの転倒3つはなかなかそれ以外の要素で取り戻すのは難しいです。ヘンドリックス選手は+3.51 ロシア勢と勝負するにはここで伸ばすことが必要でした。

スピンはワリエワ選手が当然トップ。28.98は驚異的なスコア。そもそも28点台まで出したのがワリエワ選手だけですし、27点台もめったに出ない。スピンで取りうる最高のスコアは29.40 スピンで要素6つをすべてレベル4でGOEオール+5というのは極めて困難ですが、それに近い限界点に近づいてきました。シェルバコワ選手の27.54というのも高いスコアで自身のベストです。トゥルソワ選手が3番目。25点台というのが一般的ないい選手が出してくるスコアになっていてヘンドリックス選手もこの水準でした。

ステップ系要素はシェルバコワ選手が16.08でトップ。今シーズン全体ではワリエワ選手がフィンランディア杯で出した16.16がトップですが、それに次ぐ2人目の16点台です。ワリエワ選手は15.78で2番目。本人比ではやや悪い方です。ヘンドリックス選手もステップ系要素で評価の高い選手で15.68 本人にとってシーズン2番目のスコアで、今シーズンこの3人でステップ系要素は上位3人になっています。トゥルソワ選手は14.03と上位選手の中で普通程度のスコアです。シェルバコワ選手にはスピンステップの差で負けた、という形になります。

 

こうやって振り返って見ると、ヨーロッパ選手権というのはレベルが高いんだか低いんだかよくわかりません。

表彰台に乗るには230点台が必要で、4回転をみんな跳びます。でも4位には高難度ジャンプはなく、セカンドループもなく、セカンド3回転が無くてもフリー4位まで来たりして200点一けた台で4位まで来る。8位入賞ラインは190点も下回ります。

ロシアと他の国で差がありすぎます。これで女子はロシア勢の8連覇。ただし、人数で言うと7人いて、連覇しているのはメドベージェワ選手だけです。ロシア勢8連覇というのは2回目で、96年から2003年にもあったのですが、この時はスルツカヤさんとブティルスカヤさんの2人で成し遂げられています。現代ロシアは入れ替わりが激しすぎます。ワリエワ選手はメドベージェワ選手以来の連覇をすることができるのか? 興味がもたれるところです。