全日本選手権21 女子プレビュー2

全日本選手権21 女子プレビュー2

 

前回からの続きで全日本選手権のプレビューです。

今回は女子シングルの上位選手について要素別に切ってみました。

 

○フリーTESシーズンベストの構成

  SAKAMOTO MIHARA MIYAHARA KAWABE HIGUCHI 松  生
1 2A 3Lz+3T 3Lzq+3Tq 3A 3Aq 3A<
2 3Lz! 2A 2A 3Lz+3T 3Lz+3T 3Lz
3 3F+2T 3F 3Lo LSp4 3S 2A
4 3S 3S ChSq1 3Lo CCoSp4 FCCoSp4
5 FSSp4 CCoSp4 3S 3Lz+2T 2A 3S
6 3F+3T 2A+3T FCSp4 StSq4 3Lz+3Tq+2T StSq2
7 2A+3Tq+2T 3Lz+2T+2Lo 3F<+2T+2Lo< 2A+3T+2T 3Lo+2T 3F!+3T+2T
8 StSq4 3Lo 3Lz FSSp4 3Fe 3Lz+3T
9 CCoSp4 FSSp4 CCoSp4 3F! FCSp3 3Lo+2T
10 ChSq1 StSq4 2A+3T 3S StSq4 ChSq1
11 3Lo ChSq1 StSq4 ChSq1 ChSq1 CCoSp4
12 FCCoSp4 FCCoSp4 LSp4 CCoSp4 FCCoSp4 LSp4
Base 62.52 63.33 61.23 66.54 66.42 65.01
GOE 12.43 13.68 7.35 8.25 7.38 8.03

オリンピック代表を争う今シーズン200点を超えるスコアを出した選手たちの構成を見てみます。

基礎点の合計は河辺愛菜選手がトップです。トリプルアクセルが入り、セカンド3回転二つにスピンステップオールレベル4 それで66.54までの基礎点があります。同じくトリプルアクセル持ちの樋口新葉選手もそれに匹敵する数字です。1.1倍の構成が少し強いのですが、フリップのeとスピンレベル3があった分河辺選手より下になりました。

トリプルアクセルを入れたけれど回転不足という松生選手も65.01の基礎点が出ました。コンビネーションをすべて1.1倍につぎ込んでいるのが効いています。まだ順調だった夏場の国内試合ではこれだけの構成が組めていたわけです。

三原舞依選手は基礎点はトリプルアクセル勢には及びませんが、トリプルアクセル無し勢の中ではトップに来ます。その上で出来栄え加点でTESのベストは全体トップになっています。フリーのシーズンベストがトップの坂本花織選手は基礎点はそれほど高くありません。ルッツが一本なことも影響しています。ただ、トリプルアクセル1本までなら基礎点差も4点ほどで収まるため、出来栄え差とPCS差で上に出られるという構図です。宮原知子選手は回転不足がある分基礎点が下がっています。

 

○フリーTESシーズンベストの構成(ジュニア)

  吉  田 住  吉 柴  山 千  葉 田  中 中  井
1 3A 4Tq 3Lz+3T 3Lo 3Lz 3A<
2 3Lz+3T 3F+3Tq 2A 3Lz!+3T 3Lo 3Lz+3T
3 3F 3F 3Lo 2A 3F 3Lo
4 ChSq1 CCoSp4 FSSp4 CCoSp4 FSSp3 2A+3T
5 3Lo 3Lo 3F 3S 2A+2T+2Lo FSSp4
6 CCoSp4 FCCoSp4 CCoSp4 3F+2T StSq3 3F+1Eu+3S
7 2A+3T StSq3 StSq3 FSSp4 3Tq 2A
8 3Lz 2A+3T 3Lz+2T+2Lo 3F+2T+2Lo CCoSp3 StSq3
9 3S+2T+2Lo 3Lz 2A+3T 3Lz! 2A+3T< 3Lz
10 StSq2 3S+2T+2Lo 3S StSq2 3Lz+2T CCoSp4
11 SSp4 LSp4 ChSq1 LSp4 LSp4 LSp4
12 FCCoSp4   LSp4      
Base 66.17 64.97 61.87 57.28 53.87 62.63
GOE 9.98 1.84 10.50 6.36 1.54 0.63

ジュニア勢はシニアの試合に出た2選手以外はジュニアルールでコレオがない構成で基礎点にして3点分下がります。

基礎点トップはトリプルアクセル持ちの吉田陽菜選手。66.17はシニアのトリプルアクセル持ち勢とほぼ匹敵しますがステップレベル2な分劣ります。

基礎点2位なのですが実質はトップなのが住吉りをん選手。コレオなしの64.97はシニアルールなら67.97に匹敵し、今シーズンの日本女子でトップの構成になります。冒頭に光るのが四回転トーループ。先日のインターハイ東京都予選で試された構成です。この四回転、確認できる限り初めて試合で試みたものなはずですが、転倒ではありqマークは付いたものの基礎点は満額入りました。世界ジュニアが懸かる全日本で四回転に挑むかどうかはわかりませんが見てみたいものでもあります。四回転決めたら、世界ジュニアは見えてきます。

中井亜美選手が基礎点3番目。コレオを足せば65.63に相当する基礎点。トリプルアクセルが回転不足ながら入っています。また、日本女子では珍しい、3連でトリプルサルコウがある構成。これも基礎点を高める要素になっています。

 

○シーズンベストの試合の要素別スコア

Name Total PCS J Base J GOE Spin Step
Kaori SAKAMOTO 223.34 107.63 65.27 10.79 25.29 14.36
Mai MIHARA 214.95 98.65 65.66 12.33 24.26 14.05
Satoko MIYAHARA 209.57 104.17 63.32 2.47 24.65 14.96
松  生  理  乃 207.48 98.02 69.42 6.31 23.13 11.60
Mana KAWABE 205.44 96.93 69.67 6.28 21.07 12.49
Wakaba HIGUCHI 205.27 100.68 62.02 2.44 24.56 15.57
吉  田  陽  菜 197.16 84.27 75.00 5.67 21.38 10.84
住  吉  りをん 187.28 88.19 68.30 1.28 19.93 9.58
柴  山      歩 179.97 78.30 65.60 5.21 23.61 8.25
千  葉  百  音 175.41 78.92 64.71 4.79 20.33 6.66
田  中  梓  沙 174.28 84.80 56.52 1.60 17.88 9.92
中  井  亜  美 166.08 73.14 60.23 2.70 21.76 8.25

200点を超えた6人と、全日本ジュニアコースの6人、12人について要素別のスコアを見てみます。

PCSは坂本花織選手が100点台後半まで出ていて、宮原知子選手が100点台中盤で続きます。100点に乗ったのはもう一人樋口新葉選手です。三原選手はPCSで宮原選手に5~6点負ける計算。全日本ではどうなるか? ジュニア勢6人はやはりPCSはシニアの上位と比べると差がだいぶありますが高校三年生の住吉りをん選手が最も高いスコアです。この辺は年齢及びシニア/ジュニアの区分との相関が明らかに高くなっています。

ショートフリー合わせたジャンプの基礎点は吉田陽菜選手が一人図抜けています。これはショートフリーでトリプルアクセルが入った構成だったためです。全日本でこれができるかどうか。逆にトリプルアクセル持ちにも関わらず樋口新葉選手は低いジャンプ基礎点です。抜け癖がこういうところにはっきり効いているようです。

ジャンプの加点は坂本選手三原選手の二人が二桁の得点を得ています。宮原選手と樋口選手はここが弱め。ジュニアでは吉田陽菜選手が高い側にいて基礎点と合わせてジャンプで80点を超えるスコアをただ一人出しています。

スピンは坂本選手がただ一人25点台でトップ。宮原選手、樋口選手が続きます。宮原選手は他の試合では25点台を2度出していました。河辺愛菜選手はここが弱いです。ジュニア勢では柴山歩選手が23点台後半まで出していてシニアの上位勢と近い水準にいます。

ステップ系要素はジュニアはコレオなし構成なので比較ができません。樋口新葉選手が15点台半ばまで出してトップ。宮原選手がわずかに15点に届かずに2番目ですが、これとは別の3試合では15点台でした。松生選手、河辺選手あたりはステップ系要素は弱いです。

シニアはジャンプで稼ぐ河辺松生の10代、バランスタイプの坂本三原の中野組にスピンステップで魅せる宮原樋口、という点の取り方がそれぞれ特徴があります。

 

○エントリー選手の四回転

Event Name   Elements  

 Base

Value

 
インターハイ東京都予選 住  吉  りをん 1 4Tq q 9.50 -4.800

今シーズン、全日本にエントリーしている選手の中で四回転が要素として認定されていたのは住吉りをん選手ただ一人です。転倒しましたが基礎点は9.50入りました。回転はぎりぎりですが足りるところまで来ているのであとは立つだけ。全日本で入れるかどうか? ステップアウトしたとしても回転足りて立てればスコア的には損はないですし代表選考面でも印象は良くなるかと思います。

 

○エントリー選手の回転の足りたトリプルアクセル

Event Name   Elements  

 Base

Value

 
近畿選手権 吉  田  陽  菜 1 3A+3T   12.20 1.80
Japan Open Wakaba HIGUCHI 1 3A   8.00 3.17
Cup of Austria Wakaba HIGUCHI 1 3A   8.00 3.00
NHK Trophy Mana KAWABE 1 3A   8.00 2.56
西日本選手権 吉  田  陽  菜 2 3A   8.00 2.29
みなとアクルス 吉  田  陽  菜 1 3A   8.00 2.00
木下トロフィー争奪 吉  田  陽  菜 1 3A   8.00 1.80
近畿選手権 吉  田  陽  菜 2 3A   8.00 1.80
近畿選手権 河  辺  愛  菜 1 3A   8.00 1.60
全日本ジュニア 吉  田  陽  菜 2 3A   8.00 1.57
Skate Canada Wakaba HIGUCHI 1 3A   8.00 1.33
Japan Open Mana KAWABE 1 3A   8.00 0.17
Internationaux de France Wakaba HIGUCHI 1 3Aq q 8.00 -0.33
Skate Canada Mana KAWABE 1 3Aq q 8.00 -0.78
げんさんサマーカップ 樋  口  新  葉 1 3A   8.00 -2.75
木下トロフィー争奪 吉  田  陽  菜 1 3A   8.00 -3.40
近畿選手権 河  辺  愛  菜 1 3Aq q 8.00 -4.60
げんさんサマーカップ 三  宅  咲  綺 1 3Aq q 8.00 -5.00
中四国九州選手権 三  宅  咲  綺 1 3Aq q 8.00 -5.00
京都府総体 河  辺  愛  菜 1 3Aq q 8.00 -5.00

トリプルアクセルは数多くの選手が試みるジャンプになっています。回転不足やダウングレードを含めればさらに多くの人が試しています。

回転が足りるところまで来ている選手は4人。そのうち3人、吉田陽菜選手、樋口新葉選手、河辺愛菜選手は加点の付く成功ジャンプが出来ています。さらに吉田陽菜選手はコンビネーションまで決めています。吉田陽菜選手は1試合で最大3本決められる。樋口選手河辺選手はショートフリーで1本づつというところまでです。2本入ればだいぶアドバンテージが得られます。

回転不足のレベルでは松生理乃選手、中井亜美選手、渡辺倫果選手、宮原知子選手、柴山歩選手の5人が今シーズン要素に入れたことがあります。決めたことのないジャンプを全日本の構成に入れてくるかどうか?

 

女子もオリンピック代表枠は3つです。紀平梨花選手の状態はどうなんでしょう? 男女とも昨年のチャンピオンが今シーズン1度も試合に出ていないという異常事態。ただ、紀平選手と羽生選手ではいくらか条件が異なります。紀平選手は日本女子トップの実力者ではありますが、世界での実績はグランプリファイナル優勝までです。羽生選手のようにオリンピック2連覇という巨大な実績があるわけではない。全日本で、ケガの回復期なので、ということであっても表彰台に乗れないようであれば代表には選びにくい現実があります。

順調に来ている坂本花織選手が一番固いでしょうか。シーズンベストは三原舞依選手がそれに続きます。中野組のダブル表彰台ダブル代表はあるか? 宮原知子選手も回転不足に悩みながらも210点までもってきていてなんだかんだで強さがある。4年前の表彰台は宮原-坂本-紀平という順でした。昨年の表彰台は紀平-坂本-宮原。順番こそ入れ替わっていますがこの3人が上にいるという構図は結局変わっていませんでした。

その中に割って入った実績があるのが樋口新葉選手。前回のオリンピック以降の世界選手権で最上位の実績があるのは樋口選手です。出来不出来の差が大きすぎるので読めないのですが、ノーミスでくればかなり強く、代表入り出来るところにいるはずです。

ジュニア年齢の河辺愛菜選手、松生理乃選手。二人も万全の出来ならチャンスのあるところにいます。松生選手の状態はどうなのでしょう?

優勝スコアは220点台後半、紀平梨花選手が万全なら230点台後半まで出ますが復帰戦でそこまでは厳しいかな、という予想。表彰台ラインは210点は割らないと考えると、70点-140点が必要。210点台後半まで出すには73点-145点くらい欲しくなるのですが現実的にあり得る数字です。ただ、全体の点数の鍵は選手たちではなく、誰がテクニカルコントローラーをやるか? で変わって来るという感じはします。回転不足判定が世界より全日本が厳しい、というところが試合によってはある。それ次第で誰が表彰台に乗るか? 代表になるか? も変わってきそうです。

 

ジュニア勢は粒ぞろいなのだけど突き抜けた選手がいないという今の状況。島田麻央選手を除いての全日本ジュニアのトップのスコアが180.25というのは2013年以来の低いスコアです。逆に全日本進出ラインが165.76というのはジュニアグランプリファイナル日本版などと言われた2015年の162.47を超えています(この時も7位でも全日本に進めた年)。狭いところに多数の選手がひしめいている状態。世界ジュニアの代表枠は2つ。6人の中で誰が抜けだすのか? あるいは河辺愛菜選手、松生理乃選手といった歴代の全日本ジュニアチャンピオンに回るのか。吉田陽菜選手がトリプルアクセル3本決めて、住吉りをん選手が四回転決めて、なんてことになればこの二人に代表権が行くことに誰も文句が言えないと思います。全日本のように180点までしか出ないとそちらに2つ代表の椅子を渡しにくくなる。190点は望まれるのでしょうか。京都府総体で調子の良さを見せたらしい柴山歩選手あたりも190点まで届くチャンスはありそうです。

 

女子シングルは23日木曜日にショートプログラム、25日土曜日にフリー。代表発表は26日まで待たされるスケジュールになっています。