ロシア選手権 神様超人人間

全日本と被ったスケジュールで行われていたとロシア選手権。

ワリエワ選手に始まりワリエワ選手に終わる、比喩的にも比喩じゃない意味でも、そんな大会になりました。

 

○女子シングル結果

Pl Name Total SP FS
1 Kamila VALIEVA 283.48 90.38 193.10
2 Alexandra TRUSOVA 248.65 74.21 174.44
3 Anna SHCHERBAKOVA 239.56 81.46 158.10
4 Adeliia PETROSIAN 233.97 73.29 160.68
5 Sofia SAMODELKINA 233.09 76.74 156.35
6 Sofia MURAVIEVA 230.31 80.87 149.44
7 Elizaveta TUKTAMYSHEVA 224.40 71.28 153.12
8 Maiia KHROMYKH 217.18 69.36 147.82
9 Kseniia SINITSYNA 204.61 70.75 133.86
10 Veronika YAMETOVA 191.37 59.72 131.65
11 Sofia SAMODUROVA 184.26 68.30 115.96
12 Anastasia ZININA 181.45 68.94 112.51
13 Valeriia SHULSKAIA 180.92 61.63 119.29
14 Anastasia MOROZOVA 180.57 62.28 118.29
15 Ksenia GUSHCHINA 171.62 53.61 118.01
16 Polina SVIRIDENKO 166.02 59.05 106.97
17 Arina ONISHCHENKO 163.56 57.51 106.05
18 Veronika PETERIMOVA 155.40 61.18 94.22

ワリエワ選手の圧勝。2位との点差34.83 異次元でした。他に言葉が見つからない。

トゥルソワ選手が2位に入ってきました。波が激しい選手なのでどこに入って来るか読めなかったのですが今大会は揺れる波の高い方になりました。

3位にシェルバコワ選手。本調子ではなかったのか、これが今の力なのか。ロシア国内の240点は国際大会だと230点くらいの水準であって他国にも付け入るスキがぎりぎりあるくらいの出来だと思います。それでも表彰台に残りました。

14歳のペトロシアン選手が4位。ジュニアグランプリでは210点止まりだったのですがナショナル選手権でブレイク。4回転ループを2本決めるという男女通じてみたことない構成でジュニア最高位になりました。

5位にサモデルキナ選手。すみません、何か勘違いしてプレビューの時年齢制限で出られないと述べましたが年齢足りてます。ジュニアグランプリ今一つでしたがロシア選手権では構成を上げて大きなミスなく滑って5位まで入ってきました。

6位にソフィアムラヴィヨワ選手。この選手もジュニアグランプリでは211点まででしたがトリプルアクセル2本構成でこの順位まで来ています。ただ230点出してもジュニアで3番手。そして今回いないアカチエワ選手などもジュニア選手権に出てきますので世界ジュニアの代表になる確率はまだそれほど高くないのが現実だったりします。

トゥクタミシェワ選手は7位でした。スコア的にはショートフリーノーミスだったら表彰台行けてたはずだったのですが、結局しっかり決まったトリプルアクセルは1本だけ。セカンド3回転がショートもフリーも無し。これではちょっと辛かったです。シーズンワーストが国内選手権で出てしまうめぐりあわせ。実力はあるのにオリンピックに縁のない選手というのは古今東西様々な種目でいるわけですが、トゥクタミシェワ選手もその立ち位置なってしまっています。シニアで4番目なので補欠は入ると思いますが・・・

フロミフ選手は8位でした。フロミフ選手の立ち位置でショート出遅れるとつらい。フリーはこれまでの四回転トーループ2本から、サルコウトーループの2本立てにすることで、セカンド3回転を2本使える形に構成を上げて勝負してきましたが実りませんでした。四回転決めるのだけどなぜかそのあとのトリプルループが苦手で今回も転倒。スコアを伸ばせませんでした。

 

○シニア上位5選手のショートプログラム構成

  VALIEVA TRUSOVA SHCHERBAKOVA TUKTAMYSHEVA KHROMYKH
1 3A 3Aq 2A 3A 2A
2 3F 3F! 3F 3Lz+2T 3F
3 CCoSp4 CCoSp4 FCSp4 FCSp4 CCoSp4
4 3Lz+3T 3Lz+3T 3Lz+3Lo 3F 3Lzq+2T
5 StSq4 FCSp4 CCoSp4 StSq4 FCSp4
6 FCSp4 StSq3 StSq4 LSp3 StSq3
7 LSp4 LSp4 LSp4 CCoSp4 LSp4
Base 37.71 37.11 33.78 34.03 29.22
GOE 13.78 2.50 9.84 2.94 5.74
PCS 38.89 35.60 37.84 35.31 34.40
TSS 90.38 74.21 81.46 71.28 69.36

スコア的にはワリエワ選手が異次元だったショートプログラム。技術点は50点に乗り、PCSも限界近い38.89まで出ています。1番滑走でよくこのPCS出したなジャッジ。全要素全ジャッジGOEが+3以上。平均GOEは一番低くてコンビネーションジャンプの3.889 それ以外はすべて4.000以上という異次元ワールドでした。

トリプルアクセルを入れたのは他にトゥルソワ選手とトゥクタミシェワ選手。どちらも転倒に終わりました。トゥルソワ選手のトリプルアクセル転倒は織り込み済みかと思いますが、トゥクタミシェワ選手は生命線なのでこれが転倒になると厳しい。コンビネーションも2回転になってしまい、ついでにスピンのレベル3もあります。スコアとしては10~11点ほど見込まれたものより低くなってしまいました。転倒無ければPCSももう一声出た可能性もあるので、ノーミス時との差は極めて大きなものになっています。

シェルバコワ選手はダブルアクセルですがルッツループが後半にあるというザギトワ型構成。全要素全ジャッジ+2以上の評価でトリプルアクセル無しで80点越えを達成しています。

フロミフ選手のショートはトリプルアクセル無しのセカンドループもなしでセカンド3Tを後半に付けるという一般地球人の最高構成なはずでしたがコンビネーションの二つ目が2回転に。70点に乗らない苦しいショートプログラムになりました。

 

○シニア上位5選手のフリーの構成

  VALIEVA TRUSOVA SHCHERBAKOVA TUKTAMYSHEVA KHROMYKH
1 4S 4F! 4F 3A+2T 4S
2 3A 4T 3F+3T 3A< 4T+3T
3 4T+3T 2A 2A 3Lz CCoSp4
4 3Lo 4Lz+1Eu+3S ChSq1 3F 3Lo<
5 FCSp4 CCoSp4 2A FCSp4 2A
6 ChSq1 ChSq1 FCSp4 StSq4 StSq3
7 4T+1Eu+3S 4Lz+3T 3Lz+3Lo 2A+1Eu+3S 3Lz+3T
8 3F+3T 3Lz+3Tq 3F+1Eu+3S 3Lz+2A+SEQ 3F+1Eu+3S
9 3Lz 3F! 3Lz 3Lo 3Lz
10 StSq4 FCSp4 StSq4 ChSq1 FCSp4
11 FCCoSp4 StSq3 FCCoSp4 LSp4 ChSq1
12 CCoSp4 FCCoSp4 CCoSp4 CCoSp3V FCCoSp3
Base 86.07 90.81 73.68 64.35 75.33
GOE 27.83 10.53 8.83 14.91 4.93
PCS 79.20 74.10 76.59 73.86 68.56
TSS 193.10 174.44 158.10 153.12 147.82

ワリエワ選手がフリーも異次元スコアになっています。4回転2種類3本にトリプルアクセル1本構成。全要素全ジャッジ+2以上の評価で平均GOEは全要素で+3.000を超えていきました。PCSは限界ギリギリの79.20 3項目で8人のジャッジが10.00を付けて満点扱いとなりました。

トゥルソワ選手は4回転3種類4本構成でルッツ2本とフリップの3本を成功させました。4回転3本入れば人間界では勝てます。神様に勝つには4回転5本にトリプルアクセルまで入れてのノーミスが必要そうではありますが。基礎点の低いダブルアクセルが構成に入っているのは、ここにトリプルアクセルを本当は入れたいんだ、という意志の表れなのでしょうきっと。基礎点はワリエワ選手越え。技術点も久しぶりに国内参考記録ですが100点に届きました。フリップはショートフリー通じてすべて!マーク付き。これが国際大会でeにまでされると、特に4回転でeを付けられるとシェルバコワ選手との勝負に影響が出てきそうではあります。

シェルバコワ選手は4回転1本構成でその1本で転倒しました。シェルバコワ選手も4回転成功がゼロだと表彰台は厳しい可能性が高いと思っていたのですが逃げ切っています。ただ、3位は団体戦メンバーに入れないはずなので、団体金メダルはもらえない、ということになるかと思います。

トゥクタミシェワ選手はトリプルアクセル2本構成で1本が回転不足。セカンド3Tも無い構成で基礎点は64.35にとどまっています。これだと一般人世界の上位というくらいでロシア社会の中では苦しかったです。セカンド3Tはちょっと置くとしても、トリプルアクセル回転不足と最後のスピンでレベルが取れなかった二つのミスで5~6点、ノーミス時よりも低いです。ショートフリー、ミスで落とした15~17点ほどがプラスできていれば、ぴったりシェルバコワ選手に届くところまで行けました。ノーチャンスなわけでもなく、自分の最高の演技でしっかり届くところに表彰台があっただけに残念でした。

フロミフ選手は4回転を2種類2本構成。これによりセカンド3回転を2本使えるようになり基礎点は自己最高の構成にすることが出来ました。ただ、4回転のサルコウは着氷したもののGOEはマイナス、そして苦手のトリプルループで回転不足の転倒。賭けは実らず。

 

○シニア上位5選手の要素別スコア

Pl Name Total PCS J Base J GOE Spin Step
1 Kamila VALIEVA 283.48 118.09 93.38 27.21 28.31 16.49
2 Alexandra TRUSOVA 248.65 109.70 98.72 3.41 25.48 13.34
3 Anna SHCHERBAKOVA 239.56 114.43 77.06 6.00 26.98 16.09
7 Elizaveta TUKTAMYSHEVA 224.40 109.17 70.33 8.38 22.15 15.37
8 Maiia KHROMYKH 217.18 102.96 75.85 1.43 24.91 13.03

女子シングルのPCSは満点で120点です。その中で118.09というのは限界近いスコアになります。さすがに国際大会ではここまで出せない気もしますが、四年間の中でオリンピックは一番PCSが大盤振る舞いされる試合ではあるので、最終滑走で出てきたらこれくらい出してしまうのかもしれません。PCS2番手はシェルバコワ選手でこれも予想された姿ですが、シェルバコワ選手でも114.43まで出ました。トゥルソワ選手がトゥクタミシェワ選手よりわずかですが上というのは比較的珍しい姿でしょうか。フロミフ選手はここもちょっと伸びませんでした。

ジャンプの基礎点はジャンプ超人トゥルソワ選手がトップ。4回転4本にショートのトリプルアクセルも基礎点は満額入っていますので高いジャンプ基礎点になります。ワリエワ選手は通常運転。4回転1本のシェルバコワ選手が3番目で4回転2本のフロミフ選手より上です。ルッツループがショートフリーで2回入ったシェルバコワ選手に対してセカンド3Tをショートで入れられなかったフロミフ選手、ということでこうなりました。トゥクタミシェワ選手はセカンド3Tなしとトリプルアクセルの回転不足1本もあったので基礎点的には低めでした。

ジャンプのGOEはワリエワ選手が圧倒的。2番目はトゥクタミシェワ選手です。トリプルアクセル決まり切りませんでしたが3回転のジャンプの質はよく加点を稼いでいました。シェルバコワ選手は4回転転倒で大きくGOEのマイナスが入るのでそれを他ではカバーしきれていない形です。トゥルソワ選手がGOEで伸びないのは通常営業。安全運転すればそんなことはないのでしょうけれど、限界チャレンジャーなのでこうなる。フロミフ選手はノーミスならちゃんと加点ももらえるのですが今回はうまくいきませんでした。

スピンでただ一人28点をワリエワ選手が超えていくというのはジュニアの頃からの通常営業です。シェルバコワ選手のスピンが今回はよく27点に近いところまで来ました。トゥクタミシェワ選手がノーミスでも最後の最後にこういう細部の差でシェルバコワ選手が1点未満の差で勝ちましたというストーリーもあり得た感じです。そのトゥクタミシェワ選手がスピンで点を稼げず。レベル4をちゃんととったのは4つであとは3と3Vということで基礎点から取りこぼしていました。

ステップ系要素もワリエワ選手が当然トップですがシェルバコワ選手も16点台に乗せました。トゥルソワ選手は13点台。ここの弱点は相変わらずですが、この辺にトゥルソワ選手がマシーンではなくて人間な感じも出ていて、これはこれでいいのかな、という気もしたりしています。安全運転でステップにも気を遣うようになって3位表彰台です、みたいなトゥルソワ選手の姿はたぶん誰も期待していないでしょうきっと。一方、フロミフ選手はこの先もトップで戦いっていきたいのなら、スピンステップの底上げは必要なんだろうな、と思われます。

 

異次元と元祖異次元のワンツーに終わり二人は代表内定しました。三人目は未定扱いですが、点差もあるのでシェルバコワ選手できまりでしょうか。ロシア選手権女子の表彰台、何年連続で10代選手だけで占めてるのだろう? 11年末の試合にレオノワ選手が21歳で3位表彰台に乗ったのが最後でしょうか。優勝が10代ではないのは2005年末にソコロワ選手が25歳で優勝したのが最後なようです。恐ろしい世界です。

 

いずれにしてもロシア選手権は僅差にはならず、シニア勢はそれぞれの順位で明確な点差がついての決着となりました。熾烈な代表争いということになってますが、長い目で見ると熾烈苛烈なものの、ことここに至るまでにすでに8割がた淘汰は済んでいるというところでしょうか。トゥクタミシェワ選手、フロミフ選手は残念でした。また、シェルバコワ選手も団体だけでも金メダル、というコースが厳しくなったのだろうと思います。

繰り返しになりますが、何とも恐ろしい世界でした。

これでロシア勢ではなくてエテリ勢で表彰台独占の最大の関門を通過したことになります。前回は1位2位。世界選手権は1位3位であって2位はエテリ組ではありませんでした。オリンピックでのエテリ組表彰台独占なるでしょうか?