ババリアンオープン ジュニア勢の躍動

四大陸選手権の裏でババリアンオープンが行われていました。日本からはジュニア勢3人と1組が派遣。通常ならシニアやノービスの派遣もありそうなのですが今回はなし。おそらくコロナ問題の影響でしょう。それでもジュニアだけ派遣されたのは世界ジュニアのミニマムスコアが必要なためと思われます。

シニアの日本からの派遣はなく、海外勢も目立ったスコア・選手がありませんでしたので、今回はジュニアだけ取り上げます。

 

○女子シングル ジュニアⅡ 上位10選手

Pl Name Nation Total SP FS
1 Hana YOSHIDA JPN 194.23 60.73 133.50
2 Rinka WATANABE JPN 183.69 59.57 124.12
3 Lorine SCHILD FRA 154.77 48.50 106.27
4 Dani LOONSTRA NED 137.47 46.33 91.14
5 Eve DUBECQ FRA 124.66 45.87 78.79
6 Janne SALATZKI GER 118.22 48.47 69.75
7 Hannah DEMPFLE GER 110.50 43.56 66.94
8 Sirkku KOSKENVAARA FIN 105.03 40.57 64.46
9 Elisabeth JÄGER GER 103.66 37.63 66.03
10 Lois LIBREGTS NED 103.00 37.38 65.62

エントリー選手が多いため、女子のジュニアカテゴリーは試合自体が2つに分けられています。上下の区別があるわけでもなく、単に二つに分けたということだと思われます。

トップスコアを出したのは吉田陽菜選手。いろいろあってというかコロナのせいで国際大会に出ることが出来ていませんでしたが、出ればこれくらいのスコアをパッと出してくるようで194.23 国内のパーソナルベストで197.16というのをシニアルールで出していますが、それに次ぐスコアであり、コレオ分足せばそれを上回ることができる計算のスコアでもあります。しっかり結果を出しました。当然世界ジュニアのミニマムスコアはクリアなのですが、世界ジュニアは補欠だったりします。

渡辺倫果選手が2番目で183.69 全日本選手権では199.15出してますのでもう少し欲しかった感じはしますでしょうか。ジュニアルールでコレオ分割り引いたとしても10点以上スコアが落ちています。ミニマムスコアはクリア。ユニバーシアードの代替が世界ジュニアになった、という稀有な流れで今シーズン進んでいる渡辺倫果選手。本番には期待したいです。

 

○吉田陽菜選手のショートプログラム構成

  Elements    BaseValue   GOE Scores  
1 2A   3.30   0.77 4.07 2.400
2 3Lz+3T   10.10   1.18 11.28 2.200
3 FSSp4   3.00   0.90 3.90 3.000
4 CSp4   2.60   0.61 3.21 2.400
5 1F* * 0.00 x 0.00 0.00  
6 StSq4   3.90   1.04 4.94 2.600
7 CCoSp4   3.50   1.17 4.67 3.200
  TES   26.40   5.67 32.07  

吉田陽菜選手のショートの構成はこうなっています。今シーズンのジュニアの指定ジャンプはフリップです。その単独フリップを1.1倍に入れたのですが1回転になって0点 この影響でショートは60.73にとどまりました。フリップを1.1倍に入れると基礎点は5.83 200点まであと5.77点でしたので、フリップ跳べてれば200点でした、というもったいないジャンプです。他は平均GOEで+2を超える水準にあります。スピンステップすべてレベル4 ステップでしっかりレベル4が取れるジュニアはかなり少ないです。

コンビネーションではなくダブルアクセルが冒頭にあるのは、本当はトリプルアクセルを入れたい、でもジュニアルールでは入れられない、ということの表れかと思います。フリップをちゃんと降り、トリプルアクセルまで入れば技術点が43~44点台まで出る計算です。ポテンシャルはそれくらいある、ということです。後は証明するだけ。

 

○渡辺倫果選手のショートプログラム構成

  Elements    BaseValue   GOE Scores  
1 2A   3.30   0.99 4.29 3.200
2 3Lz+3T   10.10   1.18 11.28 2.200
3 FSSp4   3.00   0.60 3.60 2.200
4 1F!* * 0.00 x 0.00 0.00  
5 CCoSp4   3.50   0.82 4.32 2.400
6 LSp3   2.40   0.56 2.96 2.200
7 StSq3   3.30   0.88 4.18 2.600
  TES   25.60   5.03 30.63  

渡辺倫果選手も1.1倍に入れたフリップが1回転になって0点。日本勢仲良くフリップ0点をやりました。他の要素は平均GOE+2を超える水準です。レイバックスピンとステップがレベル3な分吉田陽菜選手よりスコアが劣って60点に乗らなかった計算になります。フリップ跳べてればショートで65点台になりますので全日本選手権と同じくらいの水準になります。各要素では全日本と同じくらいの評価をB級ではありますが国際大会でも得られたという形です。

 

○吉田陽菜選手のフリーの構成

  Elements    BaseValue   GOE Scores  
1 3A   8.00   2.13 10.13 2.800
2 2A+3T   7.50   0.98 8.48 2.200
3 3F   5.30   0.35 5.65 0.800
4 3Lo   4.90   0.82 5.72 1.400
5 CCoSp4   3.50   0.47 3.97 1.400
6 3Lz!+3T ! 11.11 x 0.59 11.70 0.800
7 3Lz   6.49 x 1.77 8.26 2.800
8 3S+2T+2Lo   8.03 x 0.43 8.46 1.000
9 StSq4   3.90   1.04 4.94 2.600
10 SSp4   2.50   0.92 3.42 3.400
11 FCCoSp4   3.50   0.47 3.97 1.400
  TES   64.73   9.97 74.70  

吉田陽菜選手、フリーのトリプルアクセルは決めました。評価は+2.800 +4を付けたジャッジも一人いました。国際大会初成功。トリプルアクセルの成功率は、いま日本でトップかもしれません。というよりワリエワ選手も超えて今シーズンは世界でもトップと言えそうです。ステップアウトはあっても転倒がない今シーズンです。

トリプルアクセル含めて全要素プラス評価。基礎点64.73は今シーズンの日本勢では河辺愛菜選手のジャパンオープン66.54 樋口新葉選手のフランス杯66.42につぐ3位。コレオなしジュニアルールであることを考えると、実質的にはそれらの上へ行って日本人トップの基礎点構成を作ることができる、と言えます。ポテンシャルはそれくらいある、ということです。後は証明するだけ。

スピンステップもすべてレベル4でした。トータルの技術点は74.70 これは今シーズンの国際大会では、三原舞依選手のグランプリトリノ77.01 松生理乃選手の四大陸選手権76.57 坂本花織選手のNHK杯74.95 河辺愛菜選手のジャパンオープン74.79に次ぐ日本人5番目。コレオなしジュニアルールであることを考えると、実質的にはそれらの上へ行って日本人トップ相当です。ポテンシャルはそれくらいある、ということです。後は証明するだけ。

 

○渡辺倫果選手のフリーの構成

  Elements    BaseValue   GOE Scores  
1 3A< 6.40   -3.20 3.20 -5.000
2 3Lz+1Eu+3S   10.70   0.98 11.68 1.800
3 3Lo   4.90   1.14 6.04 2.400
4 FCSp3   2.80   0.65 3.45 2.400
5 LSp4   2.70   0.54 3.24 2.000
6 3Lo+2T   6.20   0.82 7.02 1.600
7 2A+3T   8.25 x 0.84 9.09 2.000
8 3Lz   6.49 x 1.18 7.67 1.800
9 3F! ! 5.83 x 0.00 5.83 0.000
10 StSq4   3.90   1.30 5.20 3.400
11 CCoSp4   3.50   0.93 4.43 2.600
  TES   61.67   5.18 66.85  

渡辺倫果選手はトリプルアクセルで回転不足の転倒でした。国際大会での成功ならず。

他の要素はマイナス評価が付きませんでした。ステップはレベル4で+3.400 カルミナブラーナ、国際大会でも高評価を得たようです。

フリップで!マーク 渡辺倫果選手はフリップが苦手。今回も!がつきましたが何とかGOEは0で抑えました。シニアカテゴリーで戦ってきた今シーズン、ショートではフリップなしでルッツからのコンビネーションと単独ループが基本構成でした。フリーでは最後のジャンプとして入れていますが!もqも<もつかなかったのは全日本の1回だけでした。今シーズンのショートフリップ指定ルールのジュニアの試合では大きな不安要素です。

ただ、これでも技術点66.85までは取りました。コレオありシニアルールなら70点に相当する高いスコアです。全日本との差はそのコレオ分とトリプルアクセルに相当します。国際大会でもシニアルールでショートフリーノーミスすれば200点相当です、という評価は得られた、とは言えます。トリプルアクセル以外に大きなミスはなく滑りでも、特に喜ぶでもなく、点が出てもこんなものかな悪くはなかった、くらいな表情なあたりが、全日本の前と比べると1つ2つ上のレベルにいるんだな、というのも感じさせられました。

 

○男子シングル ジュニア 上位10選手

Pl Name Nation Total SP FS
1 Tatsuya TSUBOI JPN 238.34 81.92 156.42
2 Matteo NALBONE ITA 195.04 67.58 127.46
3 Francois PITOT FRA 185.38 74.33 111.05
4 Corentin SPINAR FRA 184.85 60.50 124.35
5 Noah BODENSTEIN SUI 165.86 59.25 106.61
6 Ian VAUCLIN FRA 161.92 56.00 105.92
7 Hugo Willi HERRMANN GER 154.52 57.93 96.59
8 Luca FÜNFER GER 154.38 55.22 99.16
9 Arthur MAI GER 154.20 52.82 101.38
10 Mykhailo RUDKOVSKYI UKR 151.29 54.72 96.57

男子シングルのジュニアでは壷井達也選手が順当に優勝。世界ジュニア用のミニマムスコアをきっちり確保しました。238.34は今シーズンの国際大会としては四大陸選手権前として、日本勢7番目のスコアでした。

 

○壷井達也選手のショートプログラム構成

  Elements    BaseValue   GOE Scores  
1 3A   8.00   2.08 10.08 2.571
2 3F   5.30   1.59 6.89 3.143
3 CCSp4   3.20   0.64 3.84 1.857
4 3Lz!+3T ! 11.11 x 0.83 11.94 1.429
5 CCoSp4   3.50   1.12 4.62 3.143
6 FSSp4   3.00   0.84 3.84 2.857
7 StSq3   3.30   0.86 4.16 2.714
  TES   37.41   7.96 45.37  

ショートプログラムは4回転無し構成。壺井選手はあまり4回転をまだ入れてくる選手ではないというのもありますが、今回はジュニアカテゴリーの試合なのでルールとしてショートでは4回転が入れられません。

全要素全ジャッジプラス評価。今シーズンのジュニアの国際大会でのスコアとしては、81.92は全選手中トップです。技術点45.37もトップ。世界ジュニアへ期待の持てる出来でした。

 

○壷井達也選手のフリーの構成

  Elements    BaseValue   GOE Scores  
1 4S   9.70   0.97 10.67 1.000
2 3A+2T   9.30   1.60 10.90 2.143
3 3A   8.00   0.64 8.64 0.857
4 CSSp4   3.00   0.54 3.54 1.714
5 3Lo   4.90   1.67 6.57 3.286
6 3F+3T   10.45 x 1.38 11.83 2.571
7 3Lz!+1Eu+3S ! 11.77 x 0.35 12.12 0.857
8 3F   5.83 x 1.06 6.89 2.000
9 FCCoSp3   3.00   0.54 3.54 1.571
10 StSq3   3.30   0.79 4.09 2.429
11 CCoSp4   3.50   0.63 4.13 1.714
  TES   72.75   10.17 82.92  

フリーは4回転1本構成でサルコウをしっかり着氷。全要素プラス評価をもらいました。

フリーの156.42は今シーズンのジュニアの国際大会のスコアとしてはジュニアグランプリリンツでのアメリカのマリニン選手の164.04 デニステンメモリアルでロシアのジギジ選手が出した159.92に次ぐ3位のスコアです。世界ジュニアの表彰台が十分狙える立ち位置に見えます。ただ、強敵はそこではなく、今シーズン国際大会のジュニアカテゴリーに一度も出ていない、日本勢二人、佐藤駿選手、三浦佳生選手、というところにもいるので、世界ジュニアではもう一段上のスコアが表彰台に乗るには求められます。

とはいえ、マリニン選手さえなんとかすれば日本勢表彰台独占の芽が出来てかも、という今回の壷井選手の出来だったと思います。

 

渡辺倫果選手、壷井達也選手は次戦は世界ジュニアになると思われます。本当は二人とも来シーズンはシニアカテゴリーで戦わないといけないのが確定していますので、シニアのB級大会でランキングポイントを得たりミニマムポイントを取ったりしたいわけですがスケジュール的にもコロナ的にもちょっと厳しいでしょうか。できれば世界ジュニア終わった後でも、あわただしいですがクープドプランタンなり、4月に入ってのスプリングトロフィーあたりに派遣してもらいたいのですが、厳しいかなあ。まあ、ごちゃごちゃ言わずに、世界ジュニアで表彰台とか乗ってしまえば来シーズン以降の可能性はいくらでも広がります。さすがに女子でロシアを押しのけるのは厳しいかもしれませんが、壷井達也選手は十分に可能性があるはず。

もっと難しいのが吉田陽菜選手。来シーズンはシニアに上がるのかどうか。上がるにしても現状、世界ランキングポイントはゼロ。シニアの国際大会の出場実績がなく、ミニマムスコアも何も持っていません。力的にはNHK杯の地元枠が回ってきそうな位置にもいますが、その辺も住吉りをん選手など他の候補がいますし、地元枠でもミニマムスコアは必要だったはず。ではジュニアに残るか? 全日本ジュニアで島田麻央選手と争って史上初の200点決着とか見てみたい気もしますが、今シーズン枠取りに失敗するとジュニアグランプリの枠も極めて小さくなってきて2戦分確保できない可能性もある。非常に難しい立ち位置です。個人的には世界ジュニアで枠取りしっかり出来たら、グランプリはジュニアまわりでチャレンジャーシリーズも出て国内ではシニアコースで全日本へ、という扱いをしてもらえることを期待していますが、はてさてどうなるか。いずれにしても今シーズン中にもう1試合はB級大会に派遣されて、ミニマムスコアを確保しランキングポイントも取り始めることを期待しています。コロナ次第なのでしょうけど。

 

中堅選手にとってはシーズン後半の国際B級大会というのは重要な試合です。そこにコロナで派遣できないというのはなかなか残念なわけですが、何とか2月3月、あるいは4月の試合への派遣が出来てほしいと思います。