ロンバルディア杯 トリプルアクセルの飛躍

世界チャンピオン登場のロンバルディア杯。しかし、試合展開は誰もが予想しないものでした。

 

○女子シングル

Pl Name Nation Total SP FS
1 Rinka WATANABE JPN 213.14 66.83 146.31
2 Kaori SAKAMOTO JPN 205.33 72.93 132.40
3 Ekaterina KURAKOVA POL 188.41 59.24 129.17
4 Amber GLENN USA 177.01 55.99 121.02
5 Hanna HARRELL USA 175.55 60.83 114.72
6 Lara Naki GUTMANN ITA 168.39 56.46 111.93
7 Sarina JOOS SUI 161.24 51.31 109.93
8 Tzu-Han TING TPE 156.35 53.22 103.13
9 Wakaba HIGUCHI JPN 150.20 57.75 92.45
10 Elena AGOSTINELLI ITA 148.88 52.40 96.48
11 Janna JYRKINEN FIN 136.96 43.49 93.47
12 Anna PEZZETTA ITA 134.55 56.71 77.84
13 Gerli LIINAMAE EST 122.82 46.37 76.45
14 Oona OUNASVUORI FIN 122.68 50.78 71.90
15 Daria AFINOGENOVA LTU 122.05 42.97 79.08
16 Nikola RYCHTARIKOVA CZE 112.54 31.56 80.98

優勝は昨シーズン日本選手権6位の渡辺倫果選手。出発前には、メンバー豪華すぎて((((;゚Д゚))))))))、みたいなツィッター発言をしていた、オリンピック代表2人とともに派遣された初めてのシニアのISU公認大会。ショート2位からフリーでトリプルアクセルを決めて、世界チャンピオンを押しのけての逆転優勝です。昨シーズン19歳にして初めて全日本で一桁順位を出して這い上がったものの、世界ジュニアで失敗し世界の舞台で次につなげる切符を掴みそこなっていました。今シーズンが勝負のシーズン。トップで生き残れるか、1度だけのフロックか。そう問われるシーズンでいきなり結果を出しました。

優勝スコア213.14 ISU公認の200点突破は現役日本人選手では11人目、210点突破は6人目です。現役で210点を超えている6人は神戸の中野組の2人以外は全員トリプルアクセルを飛んでいることになります。213.14は昨シーズンでもシーズンベスト17位相当。ルール多少変わってますが、それでもロシア勢抜きならシーズンベスト順位はこれより上がるでしょうから、来期のグランプリシリーズはほぼ掴めたと思います。今シーズンはまだ枠を持っていないのですが、チャレンジャーシリーズの優勝者は補欠で待ち枠には入ります。日本勢がすでに3人埋めているところには入れないのですが、日本勢が1人だけの4戦目イギリスで欠場が出ることが確定しています。ここに入れてもらえるかどうか?

なお、いろいろ紆余曲折しながら今期からMFアカデミー所属(登録は法政大学ですが)になった渡辺倫果選手ですので、MFアカデミーのシニア国際大会&ISU公認大会初優勝でもありました。

 

2位が現世界チャンピオンの坂本花織選手。ちょっとフリーは散々な出来でした。まあ、坂本選手はジュニアのころはともかく、シニアに上がってからは9月にまともな結果を出したことないですから想定の範囲内ではあるのだろと思います。キスアンドクライの表情も想定の範囲内ですと言ってました。なかなかほかの選手では見かけません、点が出て喜ぶでも悲しむでもなく、膝叩いて笑うというキスアンドクライ。グランプリシリーズは初戦のスケートアメリカからなのですが、そこまでに調整間に合うかどうか。間に合わないと世界ジュニアチャンピオンのレビト選手や松生理乃選手あたりに結構な確率で足元さらわれそうにも感じます。

3位にはポーランドのクラコワ選手入りました。ロシア出身の二十歳。ロシアの選手は10代で引退が多いですが、他国へ移籍すると20代になっても現役続くコースもあるようです。昨シーズンヨーロッパ選手権5位。今シーズンは単純計算では表彰台チャンスがありそうです。

4位5位にはアメリカ勢でアンバーグレン選手にハンナハレル選手と続きます。オリンピック代表が誰もグランプリシリーズにエントリーしていないアメリカ勢。今シーズンチャンスなはずですが、流石に170点台だと厳しいのでこの先の立て直しが必要そうです

日本からのもう一人樋口新葉選手は9位でした。ケガ明け。たぶん、明けたばかりで練習積めていないです。立ち位置的にはわざわざ無理して出る必要のない試合でしたが、それでも岡島先生帯同で出てくるということは、練習積めていない状態でも試合勘取り戻すために意味のある試合、ということだったのだろうと思います。グランプリシリーズは2戦目のスケートカナダから。同じくケガ明けの紀平梨花選手との勝負なのですが、それぞれここまでに合わせていけるでしょうか。順当にいけばファイナル表彰台があり得る選手なのですが、間に合うかなあ・・・。

 

○渡辺倫果選手のフリーの構成

  Elements    BaseValue   GOE Scores AvGOE
1 3A   8.00   2.40 10.40 2.857
2 3Lo   4.90   1.27 6.17 2.571
3 3Lo+3T   9.10   1.08 10.18 2.286
4 3F   5.30   1.06 6.36 2.143
5 FCSp4   3.20   1.02 4.22 3.143
6 ChSq1   3.00   1.20 4.20 2.429
7 3Lz+2A+SEQ   10.12 x 1.30 11.42 2.286
8 2A+1Eu+3S   8.91 x 1.29 10.20 2.857
9 CCoSp4   3.50   0.70 4.20 2.000
10 3Lz<< <<  2.31 x -1.01 1.30 -4.714
11 StSq4   3.90   1.17 5.07 3.000
12 FSSp4   3.00   0.84 3.84 2.857
  TES   65.24   12.32 77.56  

小さな試合含め飛び続けてきたトリプルアクセルがここで決まりました。成功は全日本選手権以来。ただ、ポイントは、トリプルアクセル一発屋ではないということ。ショートフリー通じてスピンステップすべてレベル4。今大会スピンもステップも坂本花織選手を上回りました。

基礎点は65.24 これ、ノーミスではなくてルッツがダウングレードで出ています。2回飛ぶジャンプはルッツとループ。トリプルアクセル持ちの特権、余るダブルアクセルをシークエンスに入れています。ルッツで基礎点満額取れれば基礎点が4.18上がって69.42にまでなります。計算上、ノーミス150点です。ショートでもトリプルアクセルを揃えられるとノーミスで220点まで届くということになります。若干、GOE甘めな試合な感じがしないでもないですが、同じ試合で坂本花織選手の上へ行ったのは事実です。

フリーはJIN(仁)のテーマソング。個人的には世界へ今から出ていこうという選手にはあまり日本ローカルな曲を選んでほしくない、という思いもあるのですが、世界観はうまく出ていたように感じます。昨シーズンのカルミナブラーナ、今シーズンショートのロクサーヌのタンゴのような曲、衣装としては赤黒系が似合う選手、という印象でいましたが、こういうのもありだな、とは思いました。その辺が、世界的には無名な選手ながらPCS68.75まで出たことに反映されているように感じます。

 

○坂本花織選手のフリーの構成

  Elements    BaseValue   GOE Scores AvGOE
1 2A   3.30   0.59 3.89 1.857
2 3Lz! ! 5.90   0.35 6.25 0.571
3 3S   4.30   1.29 5.59 3.000
4 CCoSp4   3.50   1.05 4.55 3.000
5 3F F 5.30   -2.65 2.65 -5.000
6 StSq2   2.60   0.78 3.38 3.000
7 3F+2T   7.26 x 0.74 8.00 1.571
8 FSSp4   3.00   0.60 3.60 1.857
9 2A+3T+2T   9.68 x 1.26 10.94 2.857
10 ChSq1   3.00   1.50 4.50 3.000
11 3Lo   5.39 x 1.37 6.76 2.714
12 FCCoSp2   2.50   0.70 3.20 2.714
  TES   55.73   7.58 63.31  

全体的にまだ調整段階という感じだった坂本花織選手。基礎点も55.73と伸びませんでした。コンビネーションが1つ入らず。スピンステップのレベルも取れていません。2回飛ぶジャンプはフリップだけでしたが、おそらくトーループも入るはずだったのでしょう。構成的には昨シーズンとほぼ変わっていなくて、サルコウとフリップの順番が変わるくらいです。スピンの入る位置とかは変わっていますけれど。今のところ昨シーズンから基礎点が上がるという気配はありません。

まあ、過去の本人比で205.33は9月の試合としてはベストなわけで、そのうちスコアは出てくると思いますけれど、高難度ジャンプが加わる雰囲気はなさそうではありました。

 

樋口新葉選手のフリーの構成

  Elements    BaseValue   GOE Scores AvGOE
1 2A   3.30   0.73 4.03 2.143
2 3Lz<< <<  2.10   -1.01 1.09 -4.714
3 2Lo   1.70   0.07 1.77 0.571
4 3S   4.30   0.60 4.90 1.429
5 CCoSp4   3.50   0.63 4.13 1.857
6 3Lz<+REP F 3.63 x -2.36 1.27 -5.000
7 2A   3.63 x 0.53 4.16 1.714
8 2Fe e 1.58 x -0.37 1.21 -2.429
9 FCSp4   3.20   0.51 3.71 1.714
10 StSq3   3.30   0.79 4.09 2.429
11 ChSq1   3.00   0.60 3.60 1.143
12 FCCoSp3   3.00   0.42 3.42 1.429
  TES   36.24   1.14 37.38  

樋口新葉選手はコンビネーションジャンプが結果的に1つも入りませんでした。従って本当はどういう構成にしたいのか、というのがまだ見えません。特に、冒頭トリプルアクセルにした場合、余るダブルアクセルをどう使うのか、なんてところは全く見えないですし、まだそこまで考える余裕もないかもしれません。

フリー92.45はシニアに上がってどころかジュニアの頃まで遡っても最低のスコアです。スコアとか構成とか、そういった部分ではたぶん何の参考にもならない試合だったのだろうと思います。とりあえず、棄権せずに出てきて4分間滑ることができる状態にまでは回復している、というのが見えてよかったです、という試合だったのだろうと思います。

 

○男子シングル

Pl Name Nation Total SP FS
1 Adam SIAO HIM FA FRA 237.19 84.69 152.50
2 Koshiro SHIMADA JPN 235.90 89.18 146.72
3 Nikolaj MEMOLA ITA 230.52 81.68 148.84
4 Matteo RIZZO ITA 226.67 77.72 148.95
5 Nika EGADZE GEO 217.64 82.82 134.82
6 Luc ECONOMIDES FRA 197.41 64.83 132.58
7 Dinh TRAN USA 186.14 60.53 125.61
8 Emanuele INDELICATO ITA 161.00 61.40 99.60
9 David SEDEJ SLO 153.86 49.89 103.97
10 Mykhailo RUDKOVSKYI UKR 153.35 50.85 102.50
  Samuel McALLISTER IRL 54.00 54.00  

男子シングルはアダムシャオヒムファ選手がチャレンジャーシリーズ初優勝を果たしました。スコア的には今一つなところもありますが優勝は優勝です。フランス選手権では4年連続2位。まだ2番手感がありますが、世界選手権では8位に入ったり国際大会では昨シーズンから上位に出てくるようになりました。フランスは2枠ありますし、シーズン半ばから調子を上げていけばいい立場かと思います。グランプリシリーズは3戦目のフランスからです。

2位に島田高志郎選手でした。ショートは首位。フリーは結局僅差の勝負に敗れた形です。グランプリシーズは何とか1枠持っているのですが、ランキング的にはかなり低く、来シーズン以降を考えると1試合1試合が常に勝負という位置にいると思われます。できればここで300ポイント欲しかったかなあ。とりあえず、フリーの146.72にトータルの235.90はパーソナルベストですから、そういう点では先につながったとは言えます。

3位にはイタリアからメモラ選手。ジュニアグランプリシリーズを連戦していてこのロンバルディア杯で3週連続の国際大会という珍しいスケジュールで来ていますが、結局イタリア勢最上位で表彰台に乗ったのはメモラ選手でした。ジュニアグランプリファイナルがほぼ確状態なのですが、シーズン後半はヨーロッパ選手権に世界ジュニア、さらには世界選手権まで出てくるような展開がありえるのかも、と思わされるシーズン序盤です。

リッツォ選手が4位。近年のイタリア男子の興隆を引っ張ってきた選手ですが、メモラ選手に負けていると世界選手権代表権を取れない可能性も出てきます。まあ、シーズン序盤なので、まだまだこれから、ということではあるのだろうとは思います。

 

○島田高志郎選手のフリーの構成

  Elements    BaseValue   GOE Scores AvGOE
1 2T   1.30   0.05 1.35 0.571
2 3S   4.30   0.52 4.82 1.143
3 3A+2T   9.30   -1.60 7.70 -1.714
4 3Lo   4.90   0.98 5.88 2.143
5 StSq3   3.30   1.06 4.36 3.000
6 FSSp3   2.60   0.73 3.33 2.714
7 3A+1Eu+3S   14.08 x 1.60 15.68 1.714
8 ChSq1   3.00   1.10 4.10 2.143
9 1F   0.55 x 0.00 0.55 0.000
10 3Lzq+2A+SEQ q 10.12 x -0.59 9.53 -1.000
11 CCoSp4   3.50   0.84 4.34 2.429
12 FCCoSp3   3.00   0.66 3.66 2.143
  TES   59.95   5.35 65.30  

4回転がおそらく本来はトーループサルコウという2本入る構成なのだと思いますが結局1本も入りませんでした。サルコウはショートで成功しているので今大会で結局4回転は1本です。得意な方を練習して2本入れていくのではなく、2種類を1本づつ入れるという考え方でやっているようです。1種類で2回飛ぶより2種類習得する方が当然苦労は多いと思うのですが、2種類にすることで、ショートに2本入れられるし、フリーは慣れれば3本に、そうでなくてもトリプルアクセルと3Tを2本づつ使えるということになるので、先を見据えると2種類常に毎試合チャレンジする、ということの価値はあるのだろうなと思います。

2回飛んだジャンプは結果的にトリプルアクセルトリプルサルコウ。ただ、サルコウは4回転崩れの3回転でしょうから、最初から意図していたのはトリプルアクセルのみと思われます。また、セカンド3回転がないので3Tも余っています。そうなると3Lz+2Aのシークエンスよりも3Lz+3Tのコンビネーションの方が当然お得です。リカバリーするならそういう手がありました。

冒頭4回転2種類が入り、3つ目のコンビネーションはセカンド3回転で他もノーミスでスピンステップレベル4とした場合、基礎点は83.23になります。それくらい出せればTES90点にPCS80点でも170点まで出てショートと合わせて260点前後まで来るので、グランプリシリーズでもメンバー次第で表彰台争いくらいはできる。そう考えると、今組もうとしている構成でしっかり滑ることができれば、先へつながっていくんだろうと思います。

 

チャレンジャーシリーズは次週に3戦目。ネーベルホルン杯に日本からは友野一希選手が出場します。女子は無しでペアに柚木心結/市橋翔哉組が出場します