東工大 学費値上げ

東京工業大学が授業料の値上げを行う、との報道がされている

従来年額535,800円だったものを、学部、大学院共に635,400円へ値上げする

国立大学の授業料は文部科学省令で標準額が定められているが、その1.2倍を上限に自由に設定することができるとされている

実際に標準額以上の学費を設定するのは、学部では東工大が初であるという

 

そもそも国立大学の学費、というのは全国一律ではなく、上限はあるものの自由に設定できるんですね、ということを初めて知りました

その上で、標準を超える額に設定するのが東工大が初めて、というのは、なんとなく確かに理にかなってるんだろうな、という印象です

 

授業料を、「価格」と考え、学生を「顧客」と考えた場合、高い価格を設定しても集客力を維持できるのは、東京大学でしょう

しかしながら、東京大学というのは日本の中ではどうあっても目立つ大学です

東京大学が値上げをして、単独で一番高い授業料になった場合、ひと騒ぎ起きることが考えられます

そういう点で、東京大学はいの一番には授業料を上げにくい

 

逆に、ブランド力の弱い大学では、授業料を上げてしまうと学生が逃げてしまうので、それはそれで普通に、授業料を上げにくいわけです

 

その点で東工大というのは絶妙な位置にいます

目立つ立ち位置は東大が占めてくれている

理工系の上位生に対してのブランド効果は高く、多少授業料が上がったからと言って、よその大学に鞍替えしよう、とはなりにくい

都内の理工系単科大学、というのも、かぶる相手がいない

 

また、理系なのでお金かかるんです、という大義名分も打ち出しやすい

 

 

もっと大きな授業料上昇なら、早稲田や慶應といった私立の有名校に流れる可能性もあるのでしょうが、早稲田の先進理工学部なら授業料1,446,000円+実験実習料100,000円、慶應理工学部で授業料1,250,000円

どちらもまだ二倍水準なので、価格優位性が圧倒的に高いです

 

 

というわけで、価格戦略としてはうまいな、という見立てになるのですけど、国立の高等教育機関としてこれがいい判断なのかどうか、というのは何とも言い難いところ

この授業料値上げが、東工大の財政にどれくらいの影響を与えるのか、というのを、財務諸表なんかを見ながら少し考えてみます

 

公表されている最新の、2017年3月期の財務諸表を見てみると、授業料収益は4,394,899千円とあります

すなわち、約44億円ですね

授業料の値上げ幅は18.6%なので、上昇が満額完了した時点(すでに入学している学生の授業料は維持されます)で、計算上8.18億円ほどの増収になるはずです

報道では、約7.9億円の増収とありますが、学生の増減や授業料免除などで、これくらいの計算誤差が出てくるのでしょう

 

ともかく8億円前後の増収が見込まれるわけです

 

2017年3月期の経常収益は45,047,902千円

すなわち450億円程度

ですから8億円の増収というのは1.8%程度の増収ということになります

収益面では、それほど巨大なインパクトがある、というほどではないようですね

 

別の収入源と比べると、入学金収益が8.9億円ほどとあるので、毎年の入学金程度の増収が見込まれる、ということになるでしょうか

寄付金収入は12億円ありますので、寄付金の三分の二程度になります

寄付を増やして収入を増やそう、みたいな動きがありますが、寄付金を67%増やすのと比べると、授業料アップで増やす方が簡単は簡単かもしれないですね

 

支出側で見ていると、研究経費が61.4億円ですので、研究経費を13%程増やせるという計算です

教員人件費が141億円なので、5~6%ほどを賄える計算です

 

8億円の増収はそれなりに価値があります

ただ、それを、授業料の値上げで賄うことの是非、というのがどうしても問われるわけです

 

金がないと優秀な学生も学ぶことができない

これは、学生にとっても社会にとっても、また大学にとっても損失です

東工大には奨学金制度がいろいろとあります

ノーベル生理学・医学賞の大隈先生の名を冠した大隈良典記念奨学金は5名程度が月額5万円

明治時代の学長の名を冠した手島精一記念奨学金は3名に月額5万円

そのほか、学生支援機構や民間財団の奨学金もありますが、いかんせん、金額が少ない、あるいは募集人数が少ない、さらにはただの借金だったりする

入学金、授業料の免除規定もありますが、学資負担者の死亡や災害にあったことが条件となっていて、いわゆる、ただの貧乏学生には適用されないんですね、なかなか

このあたりをどう拾い上げていくか

 

そこが、課題になっていくんだろうと思います

 

東工大の授業料の値上げは、プライシングという概念からは妥当であり、増収につながるのはまちがいないでしょう

一方で、貧乏学生が学ぶ環境が改善されることも祈ります

 

関連エントリー

東京芸術大学 学費値上げ