東京芸術大学 学費値上げ

先日、9月には東京工業大学が学費を値上げする、という報道があった。

引き続き、ということでもないのだろうけれど、10月26日、今度は東京芸術大学が学費の値上げを発表した。

授業料年額535,800円から、20%値上げして642,960円にするという。

東工大は、18.59%という中途半端な値上げ幅で635,400円にしていたので、芸大の値上げ額はそれより大きい、ということになる。

 

東工大の話の時に、「価格設定」という考え方で見るならば、東工大の値上げは理にかなっている、と書きました

東京芸術大学についても同じことがいえると思います。

「価格設定」という見方で考えるならば、東京芸大の授業料値上げは理にかなっています。

 

芸大は、東工大よりもさらに、ニッチかぶる存在がいません。

東工大の場合は、しいて言えば筑波大学電気通信大学、というのが比較的近い存在としていて、東北大など旧帝大の理系学部もかぶるといえばかぶります

一方、東京芸術大学にはそういった存在はまったくいません

私大には芸術系大学はありますが、学費の面でいえば、この価格でも私大と比べればだいぶ安い、というのも東工大の時と同じ話でしょう

 

私大で芸術系としてはどこを上げればいいか迷いますが、例えば日大芸術学部というのが比較的有名かと思います。ここは学科によって多少ことなりますが、授業料名目以外に実験実習料などさまざまな費用を合わせると(入学金以外で)、152~172万円ほど、年間で掛かります。

元々3倍程度だった授業料が、2.5倍にまで縮まった、というくらいなものでしょうか

授業料起因で、芸大志望者が私大へ鞍替えする、というのは、やはり考えにくい状態です

 

というわけで、ブランド力を生かして価格を上げた、という感じであり、価格戦略としてはうまいな、というかある意味で当たり前だな、ということになりますが、東工大の時にも書きましたが、国立の高等教育機関が、果たしてこれでよいのか? というのは考え物ではあります

東工大の時も見てみましたが、芸大についても、この授業料の値上げが、財政にどれくらいの影響を与えるのか、財務諸表をのぞき込んでみることにします。

 

 

公表されている最新の損益計算書は、2018年3月期のものですが、授業料収入は1,632,632千円とあります。16.3億円のことですね。これが上昇が満額完了した時点(すでに入学している学生の授業料は維持されます)で、2割上昇するということは、3.26億円増える計算になります。芸大自身の発表によれば、今回の値上げでの増収幅は約3億円、ということなので、まあ、この計算は当たらずとも遠からずということでしょう。

東工大は計算上8億円前後の上昇でしたから、その4割程度でしかないんですね。

これは単純に学生数の差によるものでしょう。芸大は学部生2,000人、院生1,280名ほどなようで、学部生院生合わせて1万人程度の東工大と比べると、かなり少ないです。学生数が4割より少ないのに、授業料総額が4割なのは、学費免除になるような家庭環境の生徒が東工大より芸大の方が少ない、ということでしょうか。あるいは東工大の方は留学生がかなりの数いるのですが、その辺の授業料の取り方というのがやや異なる部分があるのかもしれません。

 

東京芸大の2018年3月期の経常収益は90.7億円程度。それに対して3.2億円というのは3.5%程の増収ということになります。東工大は1.8%相当でしたから、収益への影響度は東京芸大の方が二倍程度ある、ということになります

 

別の収益源と比べてみると、入学金がちょうど3.2億円なので、毎年の入学金収益分程度、収入が増える、というのも東工大と同じでした

芸大の寄付金収益は3.67億円。これとくらべると87%程度。東工大は寄付金が12億円あるのとくらべると、芸大の寄付金はだいぶ少なめですね。毎年の寄付金収入に近い水準の収入が、今回の学費値上げで得られるわけです。値上と関係ないですが、芸術好きのお金持ちの皆さんは、芸大に寄付した方がいいですね。

芸大っぽい科目として、入場料収入というのがあります。芸大主催で演奏会や展覧会があるので、それの入場料ということでしょう。これが1.25億円ほど。入場料収入の2.5倍程度が授業料値上げで入ってきます。こう見ると大きいですね

 

支出側を見てみると、研究経費が5.67億円なので、その56%分程度が賄える計算です。さすがに研究経費は理系の東工大と比べると、一桁小さいレベルで、芸術は理工学と比べればお金がかからないようです。

教員人件費は41億円。これとくらべると大体7.8%程度。経常費用全体では88.8億円ですので、それとくらべると3.6%ほどが賄えるという計算です

 

こうやって見ると、この授業料値上げによる増収分は、それなりにインパクトがあるように見えます。

 

値上による増収分は、「海外から一流の芸術家を講師として招き、個別指導や少人数制の授業を充実させるために使用する」などと説明されています。まあ、教育のために使う、というのはあたりまえでしょう。東工大の場合は、研究のために必要な様々な設備というものにお金がかかるわけですが、芸大の場合は設備よりも人にお金がかかるわけですね。

 

さて、大学が教育を充実させるために収入を増やす、ということは賛成できるのですが、それを授業料値上げで行うのが果たしてよいのか? というのはどうしても問われることになるわけです。

 

この値上げに伴って、学生の経済的支援を充実させるために、引き上げ額を含めた授業料減免の実施や、「就学支援奨学金(給付型)」を新設する、とも述べています。ただ、この辺は、まだ中身が具体的に提示されていません。こういったことを行うなら、値上げの発表と同時にこちらも具体的な中身を提示すべきだったかと思います

 

東京芸術大学には、奨学金制度はやはりさまざまあります

ただ、大学独自の「東京芸術大学奨学金制度」は、本人の応募によるものでなく、学年末試験、課題提出等の成績優秀者に授与しています、とあります。これって、奨学金という名の賞金なのでは・・・、と思ったりしますが、さすが芸大、さまざまな芸術家の名を冠した奨学金のリストがウェブ上には並んで並んで、スクロールが全然終わらず、40件もリストされていました。

金額は未定が多いですが、金額が書いてあるものでは少ないものとして2万円、標準的に10万円ないしは20万円、大きいものでは、カレーハウスCoCO壱番屋の創業者による、器楽科ピアノ、弦楽、管打楽専攻 各1名 声楽専攻 1名に 入学時100万円、在学期間年額50万円 なんてものや江崎グリコ元社長による、ピアノ系分野の在籍学生2名以内に1名あたり500万円 なんてものがありました

 

見ていると、経済的に困窮している学生への奨学金というより、成績優秀者に給付して半分プロとして活動してもらう、みたいな雰囲気を感じます

 

まあ、芸術ですからねえ・・・

天才以外は別にお金に困ってるならやめればいいじゃない、っていうところもあるんでしょうか

 

芸大の授業料値上げは、プライシングという考え方からすると、妥当なものだとは思います

ただ、収入を増やす努力は、芸大の場合は、まず、入場料収入を増やすこと、に費やしてほしかったかな、ということを思ったりします。