日本スケート連盟主催試合の収益性

これまでに、日本スケート連盟の財務状況について、2回ほど見てきました。

その中で、大会運営で得られる収益、というものは割と大きい、ということが見えてきています。

今回は、その点に注視してのお話です。

 

2017年~18年のシーズンで、スケート連盟が主催となっていた試合のうち、具体的な収支が出ているのは三つだけあります。すべてフィギュアスケートの試合で、NHK杯全日本選手権、グランプリファイナル、この三つです。

 

 

NHK杯フィギュア

全日本フィギュア

GPF名古屋

1)入場料収入

150,890,000

320,921,000

291,842,000

2)物品販売収入

12,937,743

11,936,510

4,026,976

3)補助金

33,384,000

0

257,539,500

4)協賛金等

75,600,000

0

0

5)放送権収入

0

0

0

6)出店権収入

0

0

0

7)広告権収入

134,460,000

13,560,000

1,491,600

8)雑収入

458

240

206

9)分担金収入

0

0

0

10)参加料収入

0

1,170,000

0

11)繰入金収入

0

0

0

合計

407,272,201

347,587,750

554,900,282

 

まずは収入の方

いろいろと目につく部分はありますが、最初に気になったのは、全日本フィギュアには参加料収入というものがある、という点です。

参加料収入とは、参加者が支払う参加金のこと。つまり、全日本フィギュアは、出場選手が出場費を支払っています。いくらくらい? 一人15,000円です。

 

大会の運営にはお金がかかります。大会に出場できる、という利得を得るものから費用を負担してもらってそれに充てよう、という受益者負担の考え方はわからないでもないです。全日本選手権と名の付く大会で、選手から参加料を募る競技はたくさんあります。ただ、これはフィギュアスケート全日本選手権なわけです。地上波で週末に、ゴールデンタイムに放映される、入場料収入が3億円を下らないビッグイベントなわけです。

その試合で、出場者から参加料を徴収する。それはちょっと、いかがなものかと思う部分があります。完全に興業として成り立ってますからね。出演料払え、とまではいいませんが、参加料徴収はないだろうと。そこは少し考えてもいいのではないでしょうか

 

次に目についたのは、入場料収入が一番大きいのは全日本選手権なんだな、ということ。国際大会であるNHK杯、国際大会の中でもグレードの高いグランプリファイナル。それらよりも、国内大会である全日本選手権の方が、入場料収入が大きい。これは驚くべきことかと思います。

昨シーズンの開催場所は、NHK杯大阪市中央体育館。グランプリファイナルは日本ガイシホール全日本選手権は武蔵の森総合スポーツプラザでした。

どの会場も収容人数は10,000人とされています。

その割に、入場料収入に差が出ているのは、他の試合が4日間なのに対し、NHK杯だけ三日間で終わっているあたりが大きいのでしょうか。チケット価格もNHK杯と全日本だと、微妙に全日本の方が高くなっています。ただ、グランプリファイナルは他の二試合と比べて、一回り高めの金額です。収容人数が同じで開催日数が同じなら、チケットが高いグランプリファイナルの方が全日本より入場料収入が高くてもよさそうなのですが、結果はそうではなく、全日本の方が収入が多くなってました。この辺は、どういうことなんですかね。グランプリファイナルの方が空席が多かったということになるでしょうか。

 

値付けの考え方からすると、満席になる価格設定は失敗であるという見方もできます。ぎりぎり売切れての満席の場合は値付け成功なのですが、実際には満席になったときというのは、少し早めに売り切れるわけで、そういった場合は、もう少し高い値段でもよかったのではないか? ということが収益性の観点からは問われるわけです。ただ、人気商売としては、たとえ収益性の面でよいと言っても、空席が出てしまうような売り方はしづらい、というのも確かではあるのでしょう。ただ、チケット価格の付け方、というのは、一般的に、もう少し柔軟性があってもいいような気はします。

 

物販収入はNHK杯、全日本は1,000万円台ありますが、グランプリファイナルだけ400万円台ですくなめ。この差はなんなんでしょうね。集まった観客から、さらに収益を得ようとするなら、ここの物販のところで稼ぐしかないわけですが、この辺でもう少しなんとかならないものでしょうか。最終日になる売切れになりがちな公式プログラムなんかは、何部刷るのがよいのか、なんてところは、大会を開くごとに試行錯誤を繰り返していく部分なのかもしれません。そのほかに、タオルなんかも売っているきもしますが、そういうのも収益源となるものなんでしょうね

 

協賛金はNHK杯だけ。これはNHK協賛だから入ってくるものなのでしょう。放送権料はどの試合もなしですが、この辺は包括契約になっていて大会ごとにはない形なんでしょうか。NHK杯の場合は協賛金の中に含まれるのでしょうか、あるいは別枠で国際スケート連盟に払ってるでしょうか。どちらだろう?

広告権収入はNHK杯で1.3億円というすごい金額入っています。これは、リンクの壁に出ているあれなんでしょうか? それだけだとするとかなり高い気がしますけど。プログラムに広告載せるなんてのもあるとは思いますけれど、それでも1.3億円にはなかなかならない気がするんですが、なに由来なんでしょう、この金額。

 

ここでいう補助金は、国からではなく、国際スケート連盟からのものでしょうね。放送権料とかリンクの壁に貼ってある広告権料なんかが、国際スケート連盟経由で、開催国の連盟にも還流されているのでしょう。

 

こうやって見ると、この3つの大会の収益構造は全く異なります

入場料で稼ぐのが全日本選手権。協賛金と広告権料という、企業に金出させました、というのがNHK杯補助金がメインです、というグランプリファイナル。

グランプリファイナルは、もっと自力で稼げそうな気がするんですけど、実際は国際スケート連盟に各種の権利金が入って、それを補助金という形で開催地に回す、という仕組みにしてるのでしょう。そうでないと、毎年開催地を変えるということがたぶんやりにくいのだと思います。NHK杯と全日本は、開催地は場所は移るけど常に日本のどこかである、ということは確定ですからね。

 

 

 

NHK杯フィギュア

全日本フィギュア

GPF名古屋

1)準備事務局費

2,355,549

4,920

3,993,806

2)競技会場費

32,567,028

30,880,440

39,160,655

3)競技施設設営費

105,814,316

96,634,542

125,547,573

4)宿泊施設会場費

10,265,483

0

32,005,884

5)競技会場管理費

0

0

0

6)宿泊施設管理費

0

0

0

7)その他管理委託

0

0

0

8)警備費

21,293,297

19,874,232

22,764,120

9)周知宣伝支出

7,489,712

0

1,838,640

10)宣伝広告費

588,600

0

704,000

11)販売手数料

17,317,569

34,076,955

28,280,648

12)メディア関係費

2,773,463

2,095,321

3,590,049

13)大会競技運営費

47,736,731

36,784,262

66,618,536

14)大会事業運営費

10,141,200

2,498,364

1,620,000

15)ISU役員旅費

4,527,343

0

10,836,475

16)ISU役員宿泊費

9,431,268

0

14,835,837

17)ISU役員日当

1,504,293

0

1,679,812

18)競技役員旅費

2,056,830

1,733,787

1,955,478

19)競技役員宿泊費

8,439,171

6,206,513

10,098,776

20)競技役員日当

1,566,759

1,712,959

1,921,582

21)選手団旅費

22,664,224

0

28,444,391

22)選手団宿泊費

15,916,927

0

21,500,609

23)選手団日当

0

0

0

24)大会事務局費

15,952,443

1,118,420

15,593,631

25)賞金等支払

19,800,000

0

48,070,000

26)記念品作成費

3,583,440

490,860

3,934,440

27)医務費

955,551

438,369

905,686

28)ドーピング費

0

0

0

29)租税公課

0

0

0

30)予備費

0

0

0

合計

364,741,197

234,549,944

485,900,628

 

次は支出側を見てみます。

 

賞金、というものがNHK杯やグランプリファイナルにはありますね。テニスやゴルフと比べると、賞金が小さいなあ、と思ってしまいますが、致し方ないんですかね。また、選手団旅費、というものもNHK杯、グランプリファイナルにはあります。参加費を選手から徴収する全日本選手権には、そんなものはありません。やはり、興行として完全に成り立っている全日本選手権で、参加選手が参加費を払う、というのはこの辺見ても違和感を感じます

 

競技役員に払う費用、というものもあります。まあ、ボランティアで全員というわけにはいかないですから、これはある程度当然と言えば当然でしょう。ただ、おそらくフラワーガールなんかは無償のボランティアでやってるんでしょうね。

 

警備費、というものがそれぞれ2,000万円前後掛かっています。あのレベルのイベントになると、こういったものは当然かかってくるでしょう。人が集まれば集まるほど警備費はかかるはず。そう考えると、高橋大輔選手が出る、なんてことになった近畿選手権や西日本選手権で、入場料が有料になった、というのも、それはそうせざるを得ないよね、という感じです。有料にすることで集まる人数をある程度絞ることと、そのお金で警備費など、プラスで生じてしまう費用を賄おうとしたのでしょう

 

こうやって見ると、全日本選手権というのは、国際大会と比べると、かなり費用を抑えて開催できるんですね。賞金はないし、選手は自費で集まってくるし、ISU(国際スケート連盟)の役員が海外からやってくる、なんてこともないし、自ら宣伝するということもしない。宣伝は強いて言えばフジテレビが勝手にやるので、スケート連盟が自分でお金かけてやることもないのでしょう。そう考えると、NHK杯やグランプリファイナルで、連盟が何をお金かけて宣伝してたのかはよく分からない感じですけど

大会競技の運営費も、国際大会と比べて全日本は安く抑えられています。なぜでしょう? ペアやアイスダンスの出場者数の少なさ、というのがもしかしたら効いている側面はあるかもしれませんが。そんなに効くかなあ? シングルの出場者数は多いわけですし

 

唯一、販売手数料だけは、全日本が他の大会よりも高く掛かっています。これは、なんでなんですかね? この辺も理由はよくわかりません。

 

 

 

NHK杯フィギュア

全日本フィギュア

GPF名古屋

収支

42,531,004

113,037,806

68,999,654

 

最後に収支

どの大会も黒字でしたが、黒字額は全日本が一番大きく、1億円を超える黒字を稼ぎ出しています。やっぱり、選手に参加費出させるってのは、ちょっと、ないな、という気がします。これだけ黒字を稼いでいて。

グランプリファイナルでも全日本の半分ちょっとしか稼げないんですね。

全日本ってのはすごいイベントです。特に、オリンピックシーズンの全日本選手権はすごい。

 

この辺の稼ぎが連盟役員の懐に・・・、ではなくて、選手たちの強化費に回っていくはずなわけなので、しっかり運営して、しっかり稼いで、強化して、というプラスのスパイラルを回していってもらえたらな、と思います

 

 

関連エントリー

日本スケート連盟 2018年6月期決算

日本スケート連盟の財務状況 時系列

冬競技の財政状況比較