フィギュアスケートとクラウドファンディング

 白岩優奈選手が、クラウドファンディングで資金を集めています

これを聞いたときには、正直なところ、哀しいなあ、と思いました

 

彼女はジュニア時代にはグランプリシリーズで2勝してファイナルにも出場し、世界ジュニアは二回出て4位と5位。全日本にも出て最終グループに入り、5位、6位と活躍していた選手です。

シニア上がり同期に、オリンピックに出場した坂本花織選手と、世界ジュニアで優勝と二位、とにかく目立っていた本田真凛選手がいたため、少し地味な扱いではありましたが、それでも強化指定A選手として、日本の中では上から十番目までには入る選手でした。国籍が日本、ロシア以外なら、平昌オリンピックにも出場出来ていたでしょう。

 

そんな選手が、活動資金が足りない、と言っているのです。

彼女はトップ選手として、特別お金がかかるような活動をしているようには見えません。海外のコーチの下で、とかそういうことをしているわけでもなく、自宅から学校へ通い、自宅からリンクへ通う、という生活です。プログラムも多少いじりながらも二シーズン続けるようなことも多いです。今シーズンのフリー、展覧会の絵もそうですし、ジュニア一年目のフリー、彼女の出世作とも言えたナイトワルツも、翌シーズンまた使いました。また、振付師としての実績がない段階でのキャシーリード先生に着けてもらうようなこともしていました。

無尽蔵にお金をかけるような活動の仕方をしているわけではないです

 

でも、資金が足りない

 

マイナー競技なら、日本で上位五番までに入るのはちょっと苦しいかな、十番目までには入るけど、というような選手で、資金が足りない、アルバイトして稼ぎながらなんとかしよう、という人もいるでしょう

でも、彼女は、フィギュアスケーターなわけですよ

競技の性質としてお金が割とかかる、という部分はありますが、一方で、それなりに人気がある競技なんだから、上位十番までに入るような選手が、お金の問題で苦しむ、なんて現実があるのが哀しいわけです

 

たぶん、日本のフィギュア界の構造的な問題にその辺がなってしまっているので、この辺のクラスの選手たちに活動資金が回っていくような環境を整えないといけない

 

クラウドファンディング、というのはその一つのやり方ではあると思います

ただ、どうしても引っ掛かる部分があります

 

フィギュアスケートに限らず、各種のスポーツ競技において、連盟、協会に属する選手は、その活動において、いくらかの制限を受ける形になることが多いです。

スケート連盟もその例に漏れず、選手はこうあるべき、というような規定が定められています。

日本スケート連盟は、クラウドファンディングに関して、2017年7月4日付で、ウェブサイト上にて以下のようなことを布告しています

(以下、〇に続く文章は、連盟の規定の文章からの抜粋です)

 

日本スケート連盟では、クラウドファンディングを利用し金品を募集する行為は競技資格規定第3条(1)(4)に抵触する行為と理解しております。したがって、同規定第5条に基づきあらかじめ当連盟に届書を提出し、理事会の承認を得る必要があります。

 

さて、競技資格規定第3条(1)や(4)あるいは、第5条というのはなんでしょう?

第3条は(登録無資格者) という条項で、以下のようにあります

 

 

〇本連盟は、次の者を競技者として登録することは出来ない。また、すでに登録した競技者が次の条項に該当した場合は、その登録を取り消さなければならない。

 

とあって、(1)と(4)は以下です

 

(1)スケートで得た名声を本連盟の承認を得ることなしに、商業宣伝のために自らの肖像権を利用し、あるいはその利用を認めたもの。

(4)スケートを行うことによって、ISU及び本連盟が認めていない金品を受け取った者。

 

ようは、スケートで個人で金儲けしちゃだめよ、と言っているわけです

そして、クラウドファンディングはその金儲けにあたる、と理解している、と言っているわけです

 

では、第5条はなにかというと,(申告義務)という条項になっていて、以下の記述があります。

 

〇競技者が報道関係者からスケートに関するニュース報道以外の特別取材を受ける場合、あるいは放送、座談会、映画、演劇等に出る場合または、競技者本人の肖像を使用する場合はあらかじめ連盟に届出書を提出し、理事会の承認を得なければならない。

 

ニュース報道以外の特別取材、というのがどこからがニュース報道以外なのか、区分けはよく分かりませんが、少なくとも羽生選手が、利息でござる! とか言われてたものは、事前に連盟に届けていたわけです。こういう規定があるから、クラウドファンディングをしたいならば届け出てください、と連盟は言っています

 

さて、届け出たらどうなるか?

クラウドファンディングに関しての布告の中には以下のようにあります。

 

〇当連盟理事会で協議いたしました結果、賞金等の取扱規程第5条の「個人スポンサー契約料」の取り扱いについては、収入額が1年度で500万円までは同条の規定を適用しないこととなりましたが、500万円を超える額については、その10パーセントを当連盟に支払う必要があります。

 

クラウドファンディングで得られた金銭に関して、500万円を超えた部分は10%を連盟が徴収する、とあります。超えた部分、ということですので、例えば1,000万円集まった場合は、(1000-500)×10% =50万円  が、単純計算では連盟の収入になりますが、実際には集まった1,000万円から先にいろいろな形で引かれるので、それを引いた後の金額から500万円を引いた額の10%が連盟に渡る金額となるはずです。

なお、クラウドファンディングに限らず、賞金も、個人スポンサー契約料も、スケート連盟が10%控除します。

 

このあたりはどうなんでしょう、妥当性として。クラウドファンディングに伴う、事務的な様々な事柄を連盟がやってくれる、お礼の選定、タオルやクリアファイルの作成にともなう付属的な仕事を連盟がやってくれる、そういったことであるならば、それらの手数料として、受益者負担ということでそれ相応の取り分があるのは妥当かと思います。賞金なんかは、派遣費用を連盟が出しているのだから見返があった選手は連盟にも取り分入れてくださいね、というのは論理的には成り立つでしょう。ただ、そうではなくて、申請書受け取って許可するので、沢山(500万円を超える)入金があったら、連盟にも取り分ください、というだけのことなのだとしたら、それはちょっと違うのではないかな、という印象です。実際のところ、いくらかの事務的な支援をしてくれているのかどうか、というのはわかりません。

 

 

クラウドファンディングで金銭を得る場合にも税金が絡んできます。税金については、白岩選手のケースは、購入型か寄付型か微妙なところです。購入型は出資のお礼としてなんらかの見返があるもの、寄付型は見返がないものですが、見返が金額に対して小さい場合は寄付型としてみなされることもあるようです。トップ選手のサイン入りポストカードやバナー用タオル、などは、原価と比べて大分高くても、立派な見返なような気がするので購入型な気がしますが、そこは専門の会計士に判断してもらっているでしょう。

購入型の場合は、税金としては所得税、寄付型の場合は贈与税、がそれぞれ課せられます。また、購入型の場合は売上扱いになるので、消費税がかかることがあります。ようは、商売と同じで物品ないしはサービスを販売して収益を得た、というのと同じ扱いなわけです。

消費税は、白岩選手が払う、というのではなく、仕組みを提供しているプラットフォーマーが預かって納税する形になるはずです。

 

また、当然と言えば当然なのですが、クラウドファンディングの仕組みを提供するプラットフォーマーが手数料を取ります。この設定はさまざまあるのでしょうが、白岩選手が採用したプラットフォーマーでは、達成金額10%を手数料とする、とありました。

 

こうやって書いていくと、集まった金額と比べて、選手に残る金額はだいぶ少なくなることが想像されます。

 

ちょっと計算してみましょうか

 

仮に、1,500万円あつまったとします

最初に消費税を考えます。消費税は年間の売り上げが1,000万円を超えない事業者にはかからないであるとか、その「年間」の基準とは当該年度の前々年であるとか、いろいろあるのですが、ここではクラウドファンディングのプラットフォームを提供する企業が消費税の納税義務の除外規定を満たしていない、という前提とします。

そうすると、消費税が内税で含まれた額が1,500万円、ということになるので、その分を外すと、

 

15,000,000÷1.08 = 13,888,889円になります

 

次にプラットフォーマーの手数料が引かれるのですが、この達成金額の10%というのが、消費税を引く前の見た目金額を指すのか、消費税を引いた後の実態金額を指すのか不明です。ここでは良心的に、消費税差引後とします

 

13,888,889 ×0.9 = 12,500,000円

 

この1,250万円がまず一旦選手に渡ります。

すでにこの時点で、見た目金額の六分の五に減っています。

 

次に、連盟が、500万円を超える部分の10%を取得する、ということになるので、

 

12,500,000 - (12,500,000-5,000,000)×0.1 =11,750,000円

 

つまり、75万円を連盟が持っていきました。

 

残った1,175万円から、「お礼」にかかる費用を差し引きます。

これは実際には不明です。物品としてはポストカード、バナー用タオル、オリジナルクリアファイル、とあります。ポストカードは二千枚レベル、タオルは千数百枚には及びそうです。タオルもクリアファイルもオリジナルのものですから、誰かがデザインをしています。白岩家ないしは友人、なんてのがデザインしていれば別ですが、どこかに発注してデザインしてもらっていれば、それはそれでそれなりに費用となっています。

また、これだけの人数に送るとなると、「配送料」もそれなりにかかってきます。また、最上位金額提供者には特別メッセージ動画も提供されるようですが、これの作成費ももしかしたらかかるかもしれません。家族で撮影しただけ、とかだと実質無料で出来るのかもしれませんけれど。

正直なところ、これらの費用というのがどの程度かはわからないのですが、少なくとも何万円、という単位では全然足りずに、何十万円という単位にはなります。百万円までは行かなさそうな印象ですけど。実際のところはわからないですが、ここではざっと50万円としてみましょうか。

 

そうなると、手元に残るのは1,125万円となります。最初の1,500万円からは25%ほど減っていますこの段階で。

 

そして、この受け取った1,125万円に税金がかかります。所得税というやつです。

ここで難しいのは、所得って何? という話です。所得は収入とイコールではありません。このクラウドファンディングで得た収入は、今回の仮定でいえば1,250万円のところにあります。ここから連盟が持って行った分や、「お礼」のためにかかった費用、というのは間違いなく、「経費」の区分に入れることができて、所得を考える場合には、収入である1,250万円からひくことができる、と考えました。

さて、他に経費はないのか? ということが考えられます。このクラウドファンディングは、フィギュアスケーターが、ある意味で、「フィギュアスケーターであること」を理由として、いくつかの「お礼」という商品を販売している、という風に読み解くことができます(選手はそういう意識でやってるとは思えませんが、税金を考える場合にはそう考えるのがやりやすい)。そうなると、「フィギュアスケーターであること」にかかるいろいろな費用は、このクラウドファンディングで収入を得るための、すべて経費であった、と考えることができます。そう考えれば、「所得」を計算する場合には、その分は収入から差し引いて計算することができます。

 

彼女は、一年間のスケートにかかる費用は600万円ほどである、とのべています。この600万円を経費である、とみなすことができれば、課税所得は1,125-600=525万円での計算となります。一方、スケートにかかる費用は関係なく、今回のクラウドファンディングに直接的にかかった費用だけを経費と考えるならば、課税所得が1,125万円ということになります。

課税所得が525万円である、と考えた場合は所得税は622,500円になります。課税所得が1,125万円と考えた場合は、所得税は2,176,500円となります。なお、彼女のレベルの選手だと、実際にはこのクラウドファンディングとは別のところで収入を得ることができます。わかりやすいのは賞金。グランプリシリーズで5位以内の選手には賞金が出ます。白岩選手は今シーズンは4位と5位ですから賞金があります。また、エキシビジョン出場料であるとか、そういった、スケート由来の収入源というのがいくらかあります。これらの収入は所得に加算されます。今回のクラウドファンディングで得られる金額が確定するのは来年1月なため、所得の計算は来年分ですから、先のグランプリシリーズの賞金は無関係で、来年どれだけ得られるか? ということにかかってくるわけですが、それらが税金の額に影響しますので、実際の税額ははっきりしたことは言えず、上記の計算は不確かなものではある、というのは認めざるを得ません。

 

所得税までは割と意識されるのですが、忘れられがちなものとして住民税があります。これは前年度の所得を元に計算されますので、支払いはだいぶ先になりますが、まとまった所得があれば16歳でも支払うことになります。また、住民税の金額は、同じ所得でも市町村ごとに異なるので、どこに住民登録しているかがわからない限り正しい計算は出来ません。

ここでは、得られている情報から、まあ、この辺ってことにしておこう、という居住地を選んで、課税所得525万円で計算すると、住民税は495,100円となりました。課税所得1,125万円として計算すると、1,095,100円となりました。

 

これら税金を納めるタイミングはそれぞれ異なってきますが、いずれにしてもスケートに使うことのできないやがて失われるもの、として差し引くと、

課税所得525万円で計算した場合は、11,250,000-622,500-495,100=10,132,400円

課税所得1,125万円で計算した場合、11,250,000-2,176,000-1,095,000=7,979,000円

となります

 

いろいろな仮定の上での計算ではありますが、クラウドファンディングとして、1,500万円ほど、さまざまなひとがお金を出したとしても、白岩選手がスケートに使えるお金は1,000万円くらい、ということになりそう、という推定になっています。見た目集めた金額の三分の二くらいになる、ということですね

 

11月23日の時点で、1,263万円ほどあつまっています。募集期間は2019年1月15日ということですので、まだまだ金額は伸びていくでしょう。1,500万円ほどになるか、さらに伸びて2000万円近くまでいくかは、終わってみないとわかりません。分かりませんが、2,000万円集まったとしても、上記のような計算をすると、1,300万円程度しか手元に残らない計算になります。年間600万円かかるとすると2年ちょっとの分しか賄えない計算です。得られる金額が大きくなればなるほど、税金の率も上がっていくので、見た目額面と比べて手元に残る金額の比率は小さくなっていきます。

 

というわけで、結構な金額が集まりはしそうなので、白岩家のご家族の金銭的な負担は割と低減されそうではありますが、それでもすべてを解決する、というところまでは行けなさそうな印象です。

 

税金他、さまざまなルールを考えると、理想的には一回のクラウドファンディングで多額の金銭を得るよりは、毎年500万円程度づつ入ってくる形になるのが理想でした。スケートにかかる費用分が毎年手元に入ってくる、という形になると、「所得」はゼロと考えることができて、所得税住民税の対象から外れることができるので、余計なキャッシュアウトを抑えて、支援者から選手に支援金が渡る形にできました。ただ、目標金額400万円、ということでしたので、おそらくこんな、1,000万円を超える支援が集まるとは思っていなかったのでしょう。そういう意味ではうれしい誤算なのかもしれませんが、このあたり、もう少しうまい仕組みを作ることができていればもっとよかったのにな、と少しもったいなく思う部分はあります。

 

 

繰り返しますが、彼女は、フィギュアスケートという日本の人気スポーツで、世界的にも上位にある日本の女子の中で、どう数えても上から10人までには入ってくる水準にいる選手です。

ジュニアからの推薦選手として初めて出た全日本選手権では、最後の世界選手権の代表になることになる浅田真央選手を、フリーの技術点では上回り総合5位に入った選手です。翌年、シーズン開幕前に怪我をして出遅れたにもかかわらず、全日本ジュニアでは2位に入り全日本選手権に出場し、世界選手権に出場した樋口新葉選手よりも、四大陸選手権を制し大躍進を遂げた三原舞依選手よりも、グランプリファイナル2位の勢いを繋げ全日本三連覇となった宮原知子選手よりも、フリーの技術点では高い得点を出した選手です。

 

そんな選手が、なぜ、競技を続けるのに問題が出るレベルで、お金のことに悩まなくてはいけないのでしょう?

 

これはやはり、哀しい状況と言わざるを得ません。

 

他の競技でも起こりがちなことではあるのだろうと思いますが、このあたりの、上位にいるけど最上位ではない、という選手たちが、金銭的な困難に追い込まれることなく、競技でのレベルアップを追及していく環境、というものが、いろいろな面で整備されていって欲しいと思います。

 

 

最後に、白岩選手のクラウドファンディングの内容についてまとめておきます

 

目標金額:400万円

募集開始時日:2018/11/15 0:00

募集終了日時:2019/1/15 0:00終了

 

支援金額とリターン

1,000円 :お礼のメール  お届け予定2019年1月

3,000円 :お礼のメール+サイン入りポストカード1枚 お届け予定2019年1月

5,000円 :3,000円コースのお礼+手持ちバナー用タオル1枚 お届け予定2019年1月

10,000円:5,000円コースのお礼+オリジナルクリアファイル(A4)1枚 お届け予定2019年2月

30,000円:10,000円コースのお礼+メールマガジン配信(今シーズン中) お届け予定2019年1月

50,000円:30,000円コースのお礼+特別メッセージ動画 お届け予定:2019年2月

 

11/23時点で一番多いのは、5,000円コースで、1,216口集まっています。みんな結構、バナータオル欲しいんでしょうか。50,000円コースも38口入っています。50,000円コースのお礼の特別メッセージ動画は、「支援者様への」と接頭語がついていたので、もしかしたら、支援者別に38口なら38バージョン撮影するんでしょうか(名前とか呼びかける映像だとそうなってくるわけですけど)。おそらく、こんなに集まるとは思ってなかったんだろうなあ、とは思います。変に選手に負担にならなければよいのですけど。

 

ここでもらったYUNA バナータオルが全日本選手権の会場で乱れ舞う、ということは、お届け予定が2019年2月になっているので、今シーズンはないですが、来シーズン、そんな光景も見られるかもしれません。