日本スケート連盟の財務状況 時系列

前回、少し時間が経ってしまっていましたが、最新の、2018年6月期の決算について、日本スケート連盟の財務状況を見てみました

今回は、過去からの時系列で振り返る話をします

 

ここでは主に、正味財産増減計算書を用います

スケート連盟で確認できるのは平成19年度、と記載された2008年6月期の決算のものが最も古い記録としてあります

また、平成24年度、と記載される2013年6月期の決算以降の資料はかなり詳しいものとなってきています

さらに、平成27年度、2016年6月期以降は、いくつかの大会についての収支も細かく見えるようになってきています

 

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まず、正味財産期末残高の推移

横軸は年ですが、2018とある場合は2018年6月末を指します。各決算のタイミングをここで示します。

 

2008年6月の段階で、正味財産は7億円ほどでした

その後年々増加を続けて2013年6月の時点で13.56億円に達します

5年掛けておおよそ2倍になったわけです

それが翌年、14年6月末には25.2億円と、1年でさらに倍近くまで伸びました

以降は微減傾向で続いていますが2018年6月時点でまた増えました。

 

13-14シーズンに何があったか?

ソチオリンピックのシーズンでしたね

そして、さいたまスーパーアリーナで世界選手権も行われました

この13-14シーズンの収益がとにかく巨大だったわけです

その収益をもとに、その後数年は赤字決算で、正味財産を減らしているのですが、特に問題ないという状態です

問題ないというか、そもそも、赤字予算が組まれていての赤字決算になっていて、想定通り、という運営での赤字です

お金持ってるからそれを使おう、という考え方ですね

ソチオリンピックシーズンで稼いだ分を次の3年で使っていって、平昌オリンピックシーズンにはまた稼いで資産を増やした、という構図です。

2018年6月時点の資産は26.49億円で、2014年6月の25.13億円を上回って、記録が確認できる範囲の中で最高値に達しています。

 

毎年のお金はどこから得ているんでしょう?

 

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 このグラフは収支ではなく収益を見ています。これは前回も出したものですが、放映権料やマーケティング収益がかなりの部分を占めていて、それ以外に大会運営収入が大きな額であります。また、補助金なども12%ほどあります。大会運営収入やマーケティング事業収益などは、ここから運営費や事業費を出しているので、実際にはこれが丸々自由に使えるお金になる、ということではないですが、全体の中でこういったところで動く金額、というのがスケート協会の中では大きく占められている、というのはわかります。

 

ここからのグラフでは、横軸に2018とあったら、それは2017年7月~2018年6月までの1年間のシーズンのことを指します。

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受取会費、というものは上記の円グラフの中では1.1%を占めるのみでした。

受取会費は、各選手の登録料と加盟団体の分担金があります。加盟団体というのは47都道府県で、毎年合計47万円、すなわち、各団体が1万円づつ収めているようです。雀の涙程度の額ですね。登録料はここ5年程は3,500万円前後ですが、2013年に3,462万円だったものが、2018年は3,598万円までわずかながら伸びてはいます。選手の登録料は、成年選手で2,000円、少年選手で1,000円です。役員とかは10,000円だったりしますけど。金額が微増、ということは、登録選手数が微増、というのとほぼイコールなので、競技人口はおそらく増えてはいるけれど、その伸びはわずかである、ということになります。フィギュアとスピードの内訳はわかりません。全体として、競技者登録している選手側から得るお金、というのが3,500万円程度ある、ということがわかります。

 

 

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放映権収入はフィギュアが1.7億円前後、スピードは2,700万円前後でしたが、2018年はフィギュアの額が上がって1.94億円になりました。フィギュアとスピードを比べるとフィギュアの方が圧倒的に放映権料は常に高いです。オリンピックシーズンだけ放映権料が上がるか? というとそうでもなく、ソチオリンピックシーズンは前後の年とほとんど変わっていません。浅田真央羽生結弦高橋大輔、などなどで多士済々だったソチオリンピックシーズンですが、そのころのメンバーは多くが引退して、顔ぶれがだいぶ入れ替わっている平昌オリンピックシーズンの方がフィギュアの放映権料は伸びていますので、当時のメンバーよりも視聴率が取れなくなった、ということはない、ということだろうと思います。

 

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継続的に行われていて、記録も追えるフィギュアの二大会の収支を出すとこんな感じです。

収支であって収益ではないので、これは収益から費用を引いた黒字額を意味しています。

NHK杯、全日本フィギュア、いずれも常に黒字で来ています。突出して稼いでいるのが2014シーズンの全日本フィギュア、これは実際には2013年末になりますが、ソチオリンピック直前で、浅田真央さんの最後の大会になるか? あるいは高橋大輔さんも最後になるか? と言われた時の試合です。この稼ぎが、一番最初のグラフ、2014年に正味財産が大幅に伸びていることの一つの要因となっています。また、この二つの大会が常に黒字である程度稼いでくれる、というのがスケート連盟の財政面で大きな余裕を生んでいます。

2018シーズン、すなわち2017年末の、全日本選手権も近年の中では大きな黒字額をはじき出しました。全日本は、オリンピックシーズンに黒字が大きくなる傾向はあるのかもしれません。

一方、NHK杯は2018年の黒字額は近年の中では小さくなっていました。羽生結弦選手が大会直前の怪我により欠場した、というのが大きく効いているのかもしれませんが、本当に大会直前だったので、チケットの売れ行きには関係なかったと思うんだけどなあ、と思う部分はあります。詳細見てみると、実際、入場料収入が前年と比べて減っているわけではなく、費用の方が増えたのが影響しているようです

 

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上記の二つの大会以外で、数字が見えるものをグラフ化してみるとこうなります

細かいところはわかりにくいけれど、わかることは三つあって、一つ目は、赤字の大会も結構な割合であること。二つ目は2014年に莫大な額の黒字を稼いでいること。三つ目は、2014年の全日本フィギュアのオレンジではない部分でも大きな黒字があって、これは世界フィギュアであること

細かい部分は見えにくいと思いますが、フィギュアの大会はほとんど黒字です。グランプリファイナルは9-10 13-14 17-18と、オリンピックシーズンにいずれも開かれてどれも黒字。13年の四大陸選手権も黒字です。フィギュアで赤字なのは、2011年の震災の年に、準備だけして開催できなかった世界選手権や国別対抗戦のほかは、ジュニアグランプリシリーズだけです。つまり、通常開催されたシニアの大会はすべて黒字です

一方、スピードスケートは赤字のものが目立ちます。ワールドカップは13年以降は赤字ですし、世界スプリントも14年は赤字です。ショートトラックもやはり赤字です

今シーズンは世界選手権がさいたまで行われるのですが、前回の例に倣うなら、ここでまた大きな黒字が出るはずなのですが、オリンピックシーズンではない今回は果たしてどうなるでしょうか。

 

 

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さて、では稼いだ金をちゃんと選手たちの強化に使えているのか? というのを見ないといけないのですが、これはそれなりに使えていると見えます。16年までショートトラックがゼロですが、これはスピードの中に含まれていたためと思われます。金額としてはフィギュアよりもスピードスケートの方が多いんですね。17年にスピードとショートを分離して金額を計上しても、まだスピードの方が多いです。これは、選手数の兼ね合いかと思われます。競技人口は実際のところ分からないのですが、試合に派遣しないといけない人数は明らかにスピードスケートの方が多いはずです。フィギュアスケートの方は、世界のトップレベルで戦う選手は男子シングル、女子シングル、それぞれで拡げて拡げて考えても10人程度まででしょうか。アイスダンスで二組、ペアで一組を足しても、全体で30人を超えることはありません。ジュニア、という枠もあるのでもう少し増えるかもしれませんが、せいぜいそれくらいです。一方、スピードスケートは、種目数が多いので必然的に人数が増えます。500m 1000m 1500m 3000m 5000mとあり、マススタートにパシュートまで足されると結構な数です。平昌オリンピックの派遣人数を見ると、フィギュアスケートは9人、スピードスケートは16人、ショートトラックは10人  フィギュアスケートが一番少なくなっています

 

 強化派遣費は、右肩上がりで、総額で12-13シーズンが4.8億円ほどだったものが、17年には6.6億円ほどまで伸びて、平昌オリンピックシーズンには7.25億円になりました。

ソチオリンピックシーズンが5.55億円ほどでしたので、前回のオリンピックシーズンとくらべて31%ほど強化派遣費を増やすことができた、ということになります。

ただ増え方には差があって、フィギュアが13-14シーズンに2.34億円ほどが17-18シーズンは2.86億円と22%程度の増加にとどまっているのに対し、スピード(スピードスケート+ショートトラック)は13-14シーズンの3.21億円から17-18シーズンには4.39億円までのばして37%増となっています。ただ、ショートトラックははっきり数字が分離されたのが16-17シーズンからなのですが、なぜか16-17シーズンは1.34億円だったものが17-18のオリンピックシーズンに1.20億円と減らされてしまっています。この辺は平昌オリンピックでのショートトラック日本代表チームがメダルなしで終わったことにつながるのか、あるいはそういう実力とみなされて他に手厚く強化費を回されたのか、鶏が先か卵が先かわかりませんが、なにか因果は感じます。

 

 強化費の使われ方というのも結構面白くて、フィギュアスケートの選手は、個人で強化合宿が設定されるんですね。16-17シーズンですと、浅田真央さんはトロントに9月と10月に行っていたり、三原舞依さんと坂本花織さんは、5/7-6/12に一緒にロスアンゼルスに行っていたり、でも6/12~21のトロントには坂本さんはいかずに三原さんだけで行っていたりします。そうやって名だたる選手たちの名前が並ぶ一方、羽生選手の名前は出てきませんし、宇野選手も16-17シーズンは名前が出てこなかったりします。17-18シーズンは宇野選手の名前は戻ってきました。

 

 

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さて、収入側にまた戻ります。

寄付金、というものを各種協会では受け取っていますが、スケート連盟では2013-14シーズンだけ突出して大きな寄付金を受け取っています。これもソチシーズンのこと。何だったんでしょうね、この13-14シーズンの寄付金。1.3億円ほどありました。それ以外の年は2,000万円前後の額が経常されているのですが、15~18年の四か年は、1,950万円で固定です。一般からの寄付金が毎年固定金額、というのは不自然ですから、企業かどこかからの寄付金ですかね。現在、連盟のウェブサイトでは特に寄付金を募っていません(他のスポーツ系の協会では、ウェブサイトで結構寄付金募ってます)

 

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補助金をどの程度受けているのか、というのを見ると、2億円台前半くらいの金額になっていました。これが17-18シーズンは3.73億円と大分膨らんでいます。実際の計上額はもっと大きいのですが、スポーツ振興くじからの補助金については、スポーツ振興くじに対しての巨額の費用も発生しているので、その分を差し引いた後の額で見ています。

17-18シーズン単独で見ると、黒字額の幅より受取補助金の額の方が小さいので、補助金レスでもスケート連盟はやっていけた計算になりますが、その前の3年間が赤字決算で推移しているので、ずっと補助金レスだと、今のお金の使い方ではやっていかない、という計算にはなっています。まあ、補助金込みでどれだけ強化費に使えるか、というやりくりなので、当たり前と言えば当たり前ではあるのですけど。

 

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 スケート連盟はマーケティング事業からもかなりの収益を得ています。これは、マーケティング事業で得た収益から、その事業に直接かかった費用を差し引いた金額です。やはり2013-14シーズンに膨らんでいますが、それ以外の年も2~3億円の稼ぎがあります。これはつまり、各種補助金で得ている金額と同じくらいの額を、自らのマーケティング事業で得ることができている、ということを表しています。17-18シーズンはその水準から大きく膨らんで7.72億円のプラスがありました。なお、ここの数値は、マーケティング事業収益から、マーケティング事業補助金を差し引いた額で出していて、管理費項目の給料などは差し引いていません。それを差し引くともう1,000万円くらいづつ小さい値にはなります

 それにしても、オリンピックシーズンというのはマーケティング事業でかなり大きく稼ぐことができるわけですね。

 

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ここまでの各種資金源の推移を見るとこんな感じになります。

表記上の14年、すなわち13-14シーズンは、いろいろなものの収益が膨らんでいます。ソチオリンピック効果というのはすごかったわけです。18年、すなわち17-18シーズンも平昌オリンピック効果でしょうか、各項目膨らんでいるように見えます。

補助金というのが各種スポーツ団体では多く使われていそうなイメージなのですが、スケート協会ではそれ以外の資金源が結構あるようですね。13~17年くらいの時期には補助金に近い金額を放映権料から得ていますし、マーケティング収支はどの年も補助金より高い水準にいるのが普通です。主催大会の収益も赤字分が足されているので小さめになっていますが、黒字大会だけ見れば億単位の金額になります

 

放映権料も主催大会の収益も、ほとんどがフィギュアスケート由来のものです。マーケティング事業収益の内訳はわかりませんが、これもおそらくフィギュアスケート由来のものが大きいでしょう。一方で、強化費は、フィギュアよりスピード系種目の方が掛かっている、という現実があります。誤解を恐れず言ってしまえば、フィギュアスケート補助金がなくても単独で実はやっていけるが、それ以外のスケート系競技はフィギュアで得た収益あるいは補助金で支えられている、というのが現実です

 

スピードスケートは先の平昌オリンピックで結果を出しました。かなりの好成績を上げることができました。競技としての魅力もあるはずです。放映権料でもっと稼げるように、主催大会で黒字を稼げるように、そして、その稼いだお金で強化が出来るように、という正のスパイラルを回していってもらえたらな、と思います

 

 

 

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