書評 宇宙旅行はエレベーターで

宇宙旅行はエレベーターで

ブラッドリー・C・エドワーズ フィリップ・レーガン 共著

関根光宏 訳

四六判 384ページ

 

 

軌道エレベーターというものを知っていますか?

あるいは、宇宙エレベーターとも呼ばれるものを知っていますか?

 

この手の本は、書かれた時代が古いと、現在の技術との乖離が出てしまいがちではあります

本書の発行は2013年6月25日なので、それ自体でもすでにいくらか古いのですが、元は2008年4月に出たものに修正を加えたもの、ということなので10年以上の月日が経ってしまっています

さらにいれば、翻訳版が2008年4月に出た、ということで、原書は2006年の発行です

ということもあり、多少、この本で予言されていたことからはずれが出てきてしまっている現実はあります

 

ただ、それでも、長期的に考えると宇宙空間への移動手段はロケットではなく建設されたエレベータを使う、というのは妥当な考え方だと思っています

 

軌道エレベーター、あるいは宇宙エレベーター、これらは同じものを指していて、地表から静止軌道以遠までつながる軌道を持つエレベーターのことを言います。ビルのエレベーターをずっとずっと伸ばしたら宇宙まで行けるんじゃないの? という子供の発想をちゃんと科学した、というようなものです

 

本書は、この軌道エレベーターを建設するための課題やそれをクリアしていくための手段を記しているものです。エレベーターの全長は、静止軌道までの36,000kmではなく、さらに長い10万キロが想定されています。こう聞くとそれだけで荒唐無稽な話に聞こえるのですが、10万キロ伸びるケーブル、というだけなら海底ケーブルなどで現実に存在するレベルだと言います。

 

本書では、ロケットで宇宙と出入りするのは無駄が多い、という話が出てきます。実際、宇宙に飛んでいくのには膨大な燃料が必要で、その燃料を飛ばすために燃料が必要という、何やってるんだかわからない状態である、という現実はあって、その非効率性はどこまで行ってもついて回る。だったら、構造物で宇宙とつないでしまえばいいんじゃないの? というのは妥当な発想だと思っていて、将来的には期待しています

 

現在の宇宙開拓の状況というのは、古代ギリシャ時代に植民都市を作っていく前のころ、にある程度に通っているのではないかという気がしています

都市の中に人が増え、都市の中だけでは解決できない問題も増えてきたので、外の世界を開拓していきたい。やがて船に乗って漕ぎ出していく。その漕ぎ出していく先が海の向こうだったのが古代ギリシャであり、空の向こうになるのが現代社会になる。

植民都市とは食物などの交易でつながり、やがては奢侈品の貿易なども行われ、そのうちに母市と植民都市の関係が薄れ、別々の都市となっていく。

 

宇宙開拓で手に入れたいのは、実はまずエネルギーかな、と思っています。宇宙空間でなら無尽蔵に太陽エネルギーを入手できる。ロケットで打ち上げるのでは辛いですが、エレベーターで運んでの宇宙空間太陽光パネル設置ならコストも見合うでしょう。さらに言えば、原子力発電も、宇宙でなら大した問題は起こらない。放射線? だからどうした? という話になるわけで。あとはそのエネルギーを地上に移転できればいいのですけど、その技術はまだないかな? エレベーターに送電線も括りつける?

 

エネルギー問題が解決出来たら、次は金属資源を手に入れたい。月や火星にもいくらかあるのかもしれませんが、それよりは、適度な大きさの小惑星を丸ごと掘っていくという方が良いかなあ、と思ったりもしますが、小惑星帯は月や火星と比べて大分遠い・・。

 

エネルギー、資源、の次、あるいは資源と並行するくらいの時期には住環境も手に入れたい。これは、地球のスペアのような感覚です。人類が住める場所が地球しかない、というのは結構怖いな、と思うのでスペアの用意がほしい。

地上から見える月に植民都市がある、というのはちょっといやな感じもするので、ある程度の大きさがある火星くらいにしてもらえるといいかなあ。大気が薄いし気温が低いし厳しいところもありますが・・・。地中にするか、地上でも広大な断熱密閉空間を作るとか、そんな対処になるでしょうか

 

火星に植民都市が出来たとして、地球と火星の公転周期の関係で、惑星間移動に適したタイミングは2年に1度しかやってこない、頑張ればその前後も時間かけて移動できないこともないけど、というあたりは、古代ギリシャから少し進んだ時代のインド洋交易で、季節風

、ヒッパロスの風、が吹く時期しか移動できない、というのにも似た感じで、やっぱり人類が地球上に拡散していった頃と、宇宙に拡散していくのとで、なにか似た様な感じのことがあるんだなあ、と思ったりもします。

 

一発撃ちあげるのに膨大なエネルギーの必要なロケットだと、これらの実行はかなり難しいですが、静止軌道までつながるエレベーターさえ出来れば、そこから先は時間の問題で上記のことくらいは出来ていけそうな感じです

 

ただ、やはり、その、軌道エレベーターを作ること自体が難しいんですね。本書が書かれた時期には、新素材が出来たからあとはもう少し研究が進めば行ける! という雰囲気があったようですが、それから10年以上たった現在、まだ全然…、といった雰囲気になっているように感じます。

宇宙空間までの総延長10万キロにも耐えられる新素材、というのがカーボンナノチューブなのですが、今の段階でもまだ、計算上その長さに耐える強度はあっても、長さのあるものを全然作れない、という現実があります。ここの技術の発展が一つのカギなんだと思いますが、本書の筆者たちの2020年代までにエレベーターの完成、というスケジュールはだいぶ厳しそうでしょうか。せいぜい20年代軌道エレベーターに使えるカーボンナノチューブの生産のめどが立つ、というくらいでしょうか

 

もう一つ、建造に向けての大きな課題は、やはり政治的なものでしょうか。

宇宙空間の利用についてのコンセンサス、というものが、軌道エレベーターなんてレベルのものを作るにはまず必要となるでしょう。

さらに、どこに作るのか? 赤道に近いところにしか作れない、という常識はありますが、その「近い」の意味は意外と広くて、南北35度くらいにまでなら作れる。意外だったのは、陸上ではなく会場に作った方が良い、という理論でした。北緯35度以南、という条件だと中国やアメリカも南部が入ってくるので、自国内で自国の意志だけで設置が可能かと思っていたのですが、意外だったのは、陸上ではなく海上に設置する方が望ましい、というところ。言われてみると当たり前だったのですが、様々な理由で稼動性があった方がいいのですね。そのうえで、天候などの条件を考慮すると、あまり候補地は広くない、となります。その候補地は、公海上あるいは自力でこんなものを建造できなさそうな国近辺の領海ないしは200カイリ内あたりだけになります。そういった場所をこのようなことに使う、というのには幅広く国際政治でコンセンサスを得る必要がある。さらには、どう考えてもテロの標的になりやすそうなものですから、軍事的な警備も必要となります。その辺もどうするかの検討が必要。ということで、技術的な問題がクリアできても、政治面での課題は大きそうです

 

軌道エレベーター、生きてるうちに出来てくれないかなあ

自分で宇宙に行きたい、とは思わないんですけど、宇宙とつながっては欲しいんですよね。

宇宙とつながっていければ、資源問題はかなりの部分が解決できそうに思うし

 

まずは、カーボンナノチューブの発展からですかね

 

 

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