全日本選手権18女子シングル得点考察1

女子シングルは、3強で表彰台、は大方の予想通りな感じでしたが、その順番は結構予想外な形だったでしょうか

 

今回は、それぞれの得点の取り方を見ていきたいと思います。

全体の上位7選手、というか、ショートかフリー少なくともどちらかで6位以内の選手というか、そんな7人についてまずは見てみます。

 

ショートプログラム

 

 

ジャンプ基礎点

ジャンプGOE

スピン基礎点

スピンGOE

ステップ基礎点

ステップGOE

演技構成点

減点

宮原知子

18.79

3.34

9.40

3.33

3.90

1.78

36.22

0.00

坂本花織

18.19

5.16

9.40

3.15

3.90

1.28

34.57

0.00

三原舞依

19.23

4.05

9.20

2.52

3.30

1.18

33.40

0.00

樋口新葉

19.23

2.64

9.40

2.90

3.30

1.32

33.84

0.00

紀平梨花

21.09

-1.38

9.20

2.67

3.90

1.06

33.21

-1.00

横井ゆは菜

19.23

4.38

9.10

1.54

3.30

0.75

27.97

0.00

山下真瑚

17.78

-1.42

9.20

2.18

3.30

0.90

31.00

0.00

 

どういう風に見てみるか? というのは見方がさまざまあると思うのですが、ここでは、技術点の中を、ジャンプ、スピン、ステップと分けて、それぞれの基礎点とGOEを分けて、見てみました。

 

まず目を引くのは紀平選手のジャンプの基礎点。やはりトリプルアクセルというのは大きい。コンビネーションで3回転をつけ損ねても、トリプルアクセルがあると基礎点合計は他の選手より高くなっています。一方で、上位選手の中では基礎点の差よりもGOEの差の方が大きくなっています。ジャンプのGOEは、坂本選手と山下選手の間で6.58差、坂本選手と紀平選手でも6.54差あり、これが全体の順位に大きく影響しました。ジャンプの印象が強い坂本選手ですが、基礎点の合計では上位6選手中一番低くなっています。これはルッツなし構成なためなわけですが、GOEでのプラスが非常に大きくジャンプの合計点では坂本選手が最も高い、という計算です。出来栄えで稼ぐ、という現行ルールの一つの形でここに出ています。

 

スピンステップは、宮原選手がトップ、演技構成点も宮原選手がトップです。そして、坂本選手がスピンステップ演技構成点の三つも二番手。坂本選手は穴がない、という形でした。

 

三原選手は、基礎点は割と高い構成でスピンもレベル4をそろえたのですが、GOEの付き方が上位選手の中ではやや弱めです。ステップはレベル3でGOEも伸びていない。GOEはジャンプでは3番目ですが、スピンで5番目、ステップでも4番目、このあたりのGOEが伸ばしきれないあたりが、ノーミスで終わっても3強に最終的に届かない、ということの一因になっているようです。

 

横井選手はジュニア格ですが、ジャンプに関してはシニアのトップ選手と引けを取らない点数でした。一方で、スピンステップ演技構成点は、はっきり差があります。演技構成点だけで5点の差が付くと、さすがにちょっと辛いですね。この辺はシニアに上がって回りと同等になれば自然に上がっていくような気はしますが、スピンステップの差は自力で埋めていかないといけなさそうです。ジュニアの中では表現面での定評がある選手ですが、シニアを混ざると点数の上ではそこは評価されておらず、ジャンプは同等ですよ、という見立てになるようです

 

 

 

ジャンプ基礎点

ジャンプGOE

スピン基礎点

スピンGOE

ステップ基礎点

ステップGOE

演技構成点

減点

紀平梨花

50.78

9.83

9.20

3.11

6.90

3.13

72.06

0

坂本花織

45.33

9.44

10.00

3.74

6.90

3.70

73.25

0

三原舞依

46.37

9.75

10.00

2.98

6.30

2.75

69.77

0

宮原知子

41.90

5.01

9.40

4.18

6.90

4.10

75.09

0

山下真瑚

41.59

6.34

10.20

2.49

6.30

2.37

64.91

0

横井ゆは菜

46.22

4.75

9.60

1.68

5.60

1.74

60.51

0

樋口新葉

41.31

-1.30

8.90

2.49

6.30

2.08

66.22

-1

 

さて、続いてフリー。

表記上、ステップ、と書いてある部分は、ステップの他にコレオシークエンスが加わっているので注意してください。

傾向は似たようなものになっている印象はあります

ジャンプの基礎点はやはり紀平選手が高いです。GOEについてもフリーは紀平選手がトップでした。三原選手が基礎点GOE共にジャンプでは二番目になってます。坂本選手は基礎点で4番目、GOEでも三番目。ジャンプでずば抜けた点数、というわけではないわけです。

スピンでは山下選手の基礎点が高いのですが、GOEは宮原選手がトップです。宮原選手は基礎点9.40なので、三つのスピンでGOE満点でも4.70までしかないのですが、その中で4.18のGOEというのは破格です。GOE平均+4.47の計算になるわけで、ものすごい加点をもらっています。最後のレイバックスピンは全員GOE+5で、グランプリファイナルに続いて再び満点が出ています。

樋口選手がフリーではやや精彩を欠いていたのですが、それがジャンプだけではなくスピンにも出ていて、レベルの取り損ねが1つあり基礎点も低めになって、かつ、加点もあまり取れませんでした。

ステップもGOEは宮原選手がトップ。ステップでは9人のジャッジのうち7人が、コレオでは4人が満点の+5をつけています。

演技構成点も宮原選手がトップ。ジュニアの横井選手とは15点近い差があります。平均9点を意味する72点を超えた選手は三人。宮原、坂本、紀平の三選手。順番は入違いますが、表彰台に乗る三人は、演技構成点も高い、という形です

 

同じものを少し見方を変えて、ジャンプの表記を詳しく区分けします

 

 

ジャンプ1本目

ジャンプボーナス

コンビネーション分

ジャンプGOE

スピン

ステップ+コレオ

演技構成点

減点

紀平梨花

42.30

1.68

6.80

9.83

12.31

10.03

72.06

0

坂本花織

32.30

2.03

11.00

9.44

13.74

10.60

73.25

0

三原舞依

32.90

2.07

11.40

9.75

12.98

9.05

69.77

0

宮原知子

29.40

1.52

10.98

5.01

13.58

11.00

75.09

0

山下真瑚

30.61

1.28

9.70

6.34

12.69

8.67

64.91

0

横井ゆは菜

32.90

2.32

11.00

4.75

11.28

7.34

60.51

0

樋口新葉

32.90

1.61

6.80

-1.30

11.39

8.38

66.22

-1

 

ジャンプ1本目、というのは、単独のジャンプとコンビネーションジャンプの1stジャンプのことを意味しており、かつ、後半の1.1倍ボーナスをつけていない状態の基礎点を意味します。ジャンプボーナスは、1.1倍のボーナスタイムのボーナス分の0.1倍にあたるところの点数です。コンビネーション分とは、コンビネーションジャンプの二つ目三つ目のジャンプの基礎点にあたります。

 

ジャンプボーナスはジュニアの横井選手がトップ。3連続含むコンビネーションが二つ、ボーナスタイムに入っている上に、その二つともがセカンドトーループである、ということでボーナスは最高値でした。ただ、ボーナスタイムの点差はコンビネーションなしな上で回転不足二つ取られた山下選手との差でも1.04しかなく、それほど大きなものは生み出せない、ということも見て取れます。

また、コンビネーションジャンプのセカンド以降のジャンプが実は紀平選手が一番構成弱かった、という意外なこともありました。これは、紀平選手だけが、二回飛ぶジャンプをアクセルとルッツにしている関係で、セカンドトーループが最初から一つしかないことと、三連続で今回は失敗して、1Eu<+2Sという形になったこと、二つの理由によります。3連続で失敗せず、2T-2Loがつけられたとしても、合計8.5ですので、セカンドトーループをつける選手よりは低くなります。その代わり、トリプルアクセル2本にトリプルルッツ2本という構成になるので、1本目のジャンプの基礎点合計は圧倒的で、他の選手を10点近く上回る形になるわけです。

スピンの点数は坂本選手がトップでした。宮原選手はGOEは高いのですが、基礎点低めのレイバックスピンがはいるため、上限がどうしても限られます。GOE満点を連発する、間違いなく世界最高のレイバックスピンではあるのですが、基礎点の低い弱点がここに出ています。紀平選手はトータルバランスの取れた選手、という見られ方もしていますが、スピンは基礎点低めでGOEも宮原選手ほど稼げないため、5番目になっています。弱点というほど弱いわけではないですが、この先伸ばすことができる一つのポイントになる部分です

 

 

 

最後に、ショートとフリーを合計します

 

 

ジャンプ

スピン

ステップ+コレオ

演技構成点

減点

坂本花織

78.12

26.29

15.78

107.82

0.00

紀平梨花

80.32

24.18

14.99

105.27

-1.00

宮原知子

69.04

26.31

16.68

111.31

0.00

三原舞依

79.40

24.70

13.53

103.17

0.00

樋口新葉

61.88

23.69

13.00

100.06

-1.00

山下真瑚

64.29

24.07

12.87

95.91

0.00

横井ゆは菜

74.58

21.92

11.39

88.48

0.00

 

まず、ジャンプ、スピン、ステップ/コレオという三つだけの分け方

紀平選手がやはりジャンプはトップですが、坂本選手もそれに肉薄する点数です。三原選手はジャンプでは坂本選手より上で二番目でした、一方宮原選手はジャンプははっきり弱い、という結果です。

宮原選手は、ジャンプ以外のスピン、ステップ、演技構成点はすべてトップでした。紀平選手はジャンプがトップながら、スピンは4番目、ステップと演技構成点は3番目。坂本選手はトップはないのですが、ジャンプが3番目の他、スピン、ステップ、演技構成点と2番目。今回一番バランスよく穴がなく点が取れていたのは坂本選手でした、という形です。

樋口選手山下選手は、ジャンプの失敗がどうしても影響してしまっているのですが、ジャンプでミスがあってもそれ以外はトップなのでトータルで表彰台、という宮原選手と比べると、他の要素も劣ってしまうため、200点に届かず勝負に絡めなかったという形でした

ジュニアの横井選手はジャンプは上位とそん色ないけれど、それ以外の要素はジュニアです、というところ。

 

 

ジャンプ基礎点

ジャンプGOE

スピン基礎点

スピンGOE

ステップ基礎点

ステップGOE

演技構成点

減点

坂本花織

63.52

14.6

19.4

6.89

10.8

4.98

107.82

0

紀平梨花

71.87

8.45

18.4

5.78

10.8

4.19

105.27

-1

宮原知子

60.69

8.35

18.8

7.51

10.8

5.88

111.31

0

三原舞依

65.60

13.8

19.2

5.50

9.60

3.93

103.17

0

樋口新葉

60.54

1.34

18.3

5.39

9.60

3.40

100.06

-1

山下真瑚

59.37

4.92

19.4

4.67

9.60

3.27

95.91

0

横井ゆは菜

65.45

9.13

18.7

3.22

8.90

2.49

88.48

0

 

基礎点-GOE型の表示に書き直すと、坂本選手、三原選手は紀平選手とのジャンプ基礎点の差をGOEで補ったけれど、宮原選手はGOEも同等でそこの差を詰めることができなかったことが見えます。スピンは紀平選手はレベル4をすべて取っているのに基礎点が低い、という弱点があり、GOEもそれほど高くない。ステップは、宮原選手がGOE満点でも6.40までしかない中5.88というものすごい加点(GOE平均4.59)をたたき出しているのが見えます。

 

 

ジャンプ1本目

ジャンプボーナス

コンビネーション分

ジャンプGOE

スピン

ステップ+コレオ

演技構成点

減点

坂本花織

45.80

2.52

15.20

14.60

26.29

15.78

107.82

0

紀平梨花

61.50

2.27

8.10

8.45

24.18

14.99

105.27

-1

宮原知子

43.50

2.01

15.18

8.35

26.31

16.68

111.31

0

三原舞依

47.40

2.60

15.60

13.80

24.70

13.53

103.17

0

樋口新葉

47.40

2.14

11.00

1.34

23.69

13.00

100.06

-1

山下真瑚

43.79

1.68

13.90

4.92

24.07

12.87

95.91

0

横井ゆは菜

47.40

2.85

15.20

9.13

21.92

11.39

88.48

0

 

ジャンプの中身を区分けした表示にすると、トリプルアクセル3本の破壊力がジャンプ1本目の基礎点差によく見えますが、構成上コンビネーションの2本目以降の点がかなり低くなっています。また、今シーズンからのルールではジャンプのボーナスタイム分は、それほど大きな差が生み出せない、ということも見て取れます。ジャンプボーナスの差よりGOEの差の方が圧倒的に大きいですし、ジャンプボーナスの差はスピンのレベルの取りこぼし程度の差でしかない、というようなことになっているように見えます。

 

この辺の話をグラフで表してみたのですが、

 

f:id:yumegenjitsu:20181225234347j:plain

 

ちょっといまいちわかりづらいですね。

なので、少し考えなおして、差分で表すグラフを作ってみました

 

 

f:id:yumegenjitsu:20181225234358j:plain

 

上位7選手の中で、一番その項目の点数が低い人を基準に、それよりも何点高いか、というのを足し合わせたグラフです。これなら比較的わかりやすいでしょうか。

 

ジャンプ1本目

ジャンプボーナス

コンビネーション分

ジャンプGOE

スピン

ステップ+コレオ

演技構成点

減点

坂本花織

2.30

0.84

7.10

13.26

4.37

4.39

19.34

1

紀平梨花

18.00

0.59

0.00

7.11

2.26

3.60

16.79

0

宮原知子

0.00

0.33

7.08

7.01

4.39

5.29

22.83

1

三原舞依

3.90

0.92

7.50

12.46

2.78

2.14

14.69

1

樋口新葉

3.90

0.46

2.90

0.00

1.77

1.61

11.58

0

山下真瑚

0.29

0.00

5.80

3.58

2.15

1.48

7.43

1

横井ゆは菜

3.90

1.17

7.10

7.79

0.00

0.00

0.00

1

 

差分を表で表すとこんな感じになります。

 

 

f:id:yumegenjitsu:20181225234428j:plain

基礎点-GOE形式に書き直したものだとこんな感じです

 

 

ジャンプ基礎点

ジャンプGOE

スピン基礎点

スピンGOE

ステップ基礎点

ステップGOE

演技構成点

減点

坂本花織

4.15

13.26

1.1

3.67

1.9

2.49

19.34

1

紀平梨花

12.5

7.11

0.1

2.56

1.9

1.7

16.79

0

宮原知子

1.32

7.01

0.5

4.29

1.9

3.39

22.83

1

三原舞依

6.23

12.46

0.9

2.28

0.7

1.44

14.69

1

樋口新葉

1.17

0

0

2.17

0.7

0.91

11.58

0

山下真瑚

0

3.58

1.1

1.45

0.7

0.78

7.43

1

横井ゆは菜

6.08

7.79

0.4

0

0

0

0

1

 

 

バランスよく点を取れた坂本選手が今回は勝ったんだなあ、というのが見える結果となりました。

 

 

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